「熱中症になるなんて体調管理がなってない」などと個人の問題として考える人もいるが、熱中症は「自己責任」の一言では片づけられない。実は社会的な要因が大きく関係している。

 熱中症にかかりやすい人を「熱中症弱者」と言う。三宅医師によると、具体的には(1)高齢者、(2)乳幼児、(3)持病(高血圧や糖尿病、精神疾患、認知症など)がある人、脳卒中や手術後の人、身体に障害がある人(4)ひとり暮らしまたは日中ひとりで過ごし、近所との付き合いもない人、(5)経済的弱者――だという。

 高齢者は体の水分量がもともと少ないうえ、汗をかきにくく、暑さも感じにくいために対応が遅れがちだ。さらに家族や地域の見守りがない場合、徐々に進行する体調不良が見過ごされてしまうという。また(5)のように経済的事情でエアコンがない環境で過ごす人もいる。

 救急隊員として出動経験のある川満陽一さんは言う。

「救急車で駆けつけると室内の温度が非常に高く、要介護になり家の奥の風通しの悪い部屋で過ごしていた人や、電気代がもったいないと暑さを我慢してしまう人も少なくなかった。弱い立場にいる人たちが熱中症のリスクが高い」

 こうした「熱中症弱者」と呼ばれる人たち以外にも、熱中症になってしまう人は社会の抑圧に追い詰められた人たちだ。冒頭の営業職の男性のように、体調が悪くても休めない人や、出社を強要する会社、水分補給も自由にできない職場などが、熱中症を誘発する。

 働く人たちの中には納期が迫っている、代わりの人がいない、クビにされるかもしれない――などのプレッシャーから、体調の異変を感じていても休日や休憩を取れないという人は少なくない。

 また、学校における熱中症での死亡事故は1975年から2017年までの43年間で170件あり、うち85.59%が部活動、残りは学校行事で発生している(日本スポーツ振興センターまとめ)。三宅医師は言う。

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「疲れた」は熱中症のサイン!