酒井:一方、高校受験組のカリキュラムは中学3年間と高校3年間に分断されます。一般的に高校で勉強する内容のほうが圧倒的に難しい。同じ大学を目指すにしても、6年間を見通したカリキュラムで勉強できる中高一貫校に比べ、高校受験組は高校3年間の勉強が急傾斜になります。そのため安易に数学が必要ない私大の文系学部を選ぶなど、苦手科目を作る生徒が出てくる。それ以前に、理科、社会を勉強しなくても受験ができる魅力的な私立高校も多く、結果として大学の進路を狭めている可能性もあります。

──早稲田大学が政治経済学部の一般入試で、21年度から数学を必須とすると発表しましたね。

井上:苦手科目を作らないという点でも、中高一貫校が有利。国公立大学の合格実績を伸ばしている三輪田学園(千代田区)では、高校受験がない分、中学2~3年生で時間をかけて数学をやるんです。

 進学校の海城(新宿区)や洗足学園(川崎市)など、高校募集を停止する私立の中高一貫校が増えていることも見逃せません。高校入学組が入るとカリキュラムを複線化せざるを得ず、学校としては対応が難しいのでしょう。洗足学園は海外大学合格実績の高い学校ですが、海外大学受験は大学情報も含めて中高一貫で時間をかけて力をつける必要があります。

──では、高校受験ならではのメリットはあるでしょうか?

酒井:最も大きなメリットとしては、高校受験は半分子どもで半分大人の時期にあるイベントになります。親の影響力の大きい中学受験に比べて、ある程度自分の意思を持って進路を選べるのではないでしょうか。

──逆を言えば、それは中学受験のデメリットと言えます。

井上:親主体で受験が進む分、子どもに合わない学校を選び、最悪、不登校になるなど脱落するリスクがある。例えば帰国子女枠での入学者は、一般入試枠の入学者より、退学や転校が多い。帰国子女向けの入試は入学枠が別にあったり、試験も一部免除されたりします。そうなると親は欲が出て、損得で学校を選び、結果として学校選びを間違ってしまう。昔は偏差値順に学校を決めていれば良かったのですが、今は同じ進学校でも麻布、開成、武蔵を校風で選ぶ時代です。小学校4年生くらいから、子どもを真ん中にして、家族で話していかないと駄目なんです。

──小学4年生からですか?

井上:主な中学受験塾の本科コースは4年生からです。ただ、我々のなかでお父さんを「ラスボス」と呼んでいます。最初からお父さんの姿が見える家庭はトラブルが起こりませんが、お母さん主導の場合、小6の最後になってお父さんが登場し、進路が180度変わることもあります。

酒井:高校受験の場合は、中学1年生から通塾する生徒が多いですね。早稲田アカデミーで言えば、生徒数は最終的に中学3年で5800人程度になりますが、中1の夏の段階で約3200人。その内、中学受験をしない小6クラスからの生徒が約1200人います。

(構成/編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年7月16日号より抜粋