Richard Linklater/1960年、米・テキサス州ヒューストン生まれ。主な監督作に「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」「ファーストフード・ネイション」他
Richard Linklater/1960年、米・テキサス州ヒューストン生まれ。主な監督作に「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」「ファーストフード・ネイション」他
「30年後の同窓会」/監督:リチャード・リンクレイター、出演:スティーヴ・カレル他。全国順次公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【「30年後の同窓会」のワンシーンはこちら】

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■いま観るシネマ

 6歳の少年の成長を12年にわたり記録した映画「6才のボクが、大人になるまで。」で、世界中の評論家をうならせたリチャード・リンクレイター監督。人間心理の表裏を、生き生きと優しさをもって描く彼の映画は、人の心をじんわりと包み込む温かさがある。新作「30年後の同窓会」はベトナム戦争時代の戦友の友情ドラマだ。

「友だちや友だちの兄などが戦死した。ベトナム戦争は僕にとって子ども時代のすべてだった。終戦は高校の新入生の時で、僕の人生は常にベトナム戦争とともに歩んでいた」

 主人公ラリーは最近妻を亡くし、一人息子はイラク戦争で戦死した。息子の遺体の引き取りに同行してもらうため、30年前のベトナム戦争の戦友を訪ねるのだ。

「イラクで命を落とした兵士が帰国する話だよ。棺を背負う兵士たちが泣き、戦友の家族に対面する、過酷なつらい経験だと思う。戦争映画の多くはこれらの側面を重要視しない。でも家族にとってみれば、それは大事件なんだ」

 あえて15年前に終結したイラク戦争について今語る意味もある。

「イラク戦争はあまりに痛々しく、社会的な傷口だった。現在ではなまなましさも薄れ、語り合えるようになった。当時は戦争反対だと言おうものなら、愛国心がないと言われ攻撃された。10年前に公開していたら、この映画はとても違った反応を受けただろう」

 痛々しい物語だが、映画全体にちりばめられたユーモアが時々雲からのぞく日差しのように輝く。米ドラマ「ブレイキング・バッド」で世界的に大ブレークしたブライアン・クランストン、「40歳の童貞男」のスティーヴ・カレル、「マトリックス」のローレンス・フィッシュバーン。ベテラン俳優の三人三様の演技がとにかく良い。

「状況が悪ければ悪いほど、人間は可笑(おか)しい冗談を言ったりする。状況に対処する一つの方法なのだと思う。葬儀で笑える思い出について語りあうのは、ある種の治療薬なのだろう。悲劇的な状況に置かれた人間が、劇的に振る舞うのは真実味がないと思うし全然共感できないんだ」

 勝者の視点でなく人の心の傷痕から描く戦争映画なのだ。

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