一方、弟は仕事が不安定だ。それに加え、本人がどう暮らしていくのか、どうしたいのかという見通しが全く伝わってこない。そこに一抹の不安を感じると西山さんは本音を漏らす。

 弟の国民年金は、母が肩代わりして払い続けてきた。母が管理しているアパートの家賃収入の半分は弟に仕送りしている。弟が大学に進学して東京に出てから、かれこれ20年以上も親が仕送りを続けていることになる。

 弟は、いい仕事に就くために、社会保険労務士などの資格を取ると言ってから久しい。だが、いつも成績はぱっとせず、本格的に勉強している様子も見受けられない。親から弟を指導してほしいと言われるが、あまり根掘り葉掘り細かいことも聞けない。弟に自信をつけてもらおうと、

「もう少し合格率の高い別の資格にも挑戦してみるのはどうか」

 と度々助言してきたものの、暖簾に腕押しといったところだ。

 実は西山さん自身、メーカーに勤めているが、会社の体制が二転三転して、正社員から契約社員に切り替わった。さらに、事業再編により勤務先の子会社が閉鎖されるため、今後は退職して派遣のエンジニアとして働く予定だ。そもそも自分の将来もわからない状況の中、弟への仕送りを辞めることを決意した。

 限られた自分の収入の中から、姉にどこまでのことができるか。弟を扶養家族にするのは難しく、「本人の自助努力を期待しています」。弟自身がどうしていきたいのか言い出すのを、ずっと待ち続けている。

「順序立てとしては、まず姉の暮らしを固めようと思っています。実家の資産やさまざまな福祉制度、地域の人たちの協力を得ながら。後は、どっちつかずの弟をどうするかですね。以前は弟が40歳になるまでにはなんとか目処がついてくれたらと思っていたけれど、その年齢は軽く超えてしまった。いまでは、弟が50歳を過ぎたら何か考えようかと思っています。犯罪者になっていないから、まだいいかな。とにかく生きていてくれさえすればいいといった境地です。自分はフリーランスの仕事を増やしながら何としても、70歳までは働くつもりでいます」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

※肩書などは新書出版時(2016年)のものです。