力を注ぐ電気自動車ですら、30年後まで事業が生き残れるとはだれにも断言できないとする。

「パナソニックはイノベーションが得意な会社だと言われるようになりたい」。変化する会社こそが、目指す企業像だ。

 家電事業も次の100年を模索し始めた。これまで「HOME」を壁と屋根に囲まれた家と捉えてきたが、ネットによって地域や社会とつながることで家のなかにとどまらず、心が安らぎ、大切な人と過ごすことができる場所と再定義。最近は「住空間」という言葉を多用する。そこに踏み込むには、家電ひとつひとつではなく、機器と機器が連動し、さらにサービスを組み合わせる必要がある。

 たとえば電子レンジは、調理時間を短くしたり、調理の手間を少なくしたりといったメリットを提供してきた。いわば「調理」という家事の支援である。

 今後目指すのは電子レンジや他の家電などとスマートフォンを連動させ、「食生活」をトータルで支えること。日中の活動や夜間の睡眠のデータなどによって利用者の体調を把握して最適なレシピを提案、食材の保管や調理までも手がける。

 時間にゆとりがない平日には、不在時でも食材を受け取れる冷凍・冷蔵対応の宅配ボックスと、ワンタッチで自動調理できる電子レンジによって、料理の負担を最小化。ゆとりがある休日には利用者の調理技術に合わせてこだわりのメニューを提案し、厳選された食材を調達。食の新たな体験をサポートする。

この例では、レシピ提供、食品の生産や流通、健康管理、宅配・運送などを手がけるパートナー企業との連携が不可欠だ。すべてを一社で完結しようとしたかつての思想からも脱却する必要があるというわけだ。

 今年3月には横浜市で次世代スマートシティーを街びらき。パナソニックをはじめ8企業・大学が運営し、二酸化炭素の排出量を4割減らすといった目標を掲げる。マンションの住戸では端末ひとつでテレビ視聴に加えてインターホン応答や玄関の施解錠などができる。

「家電というハードウェアをつくるメーカーではなく、家電とサービスを融合し、『憧れ』の生活を実現する企業へと進化を図りたい」(アプライアンス社の本間社長)

「家電」や「家」をつくる企業から「暮らし」、そして「住空間」をつくる企業へと、パナソニックは変わることになる。(ジャーナリスト・大河原克行)

AERA 2018年6月18日号より抜粋