桜新町アーバンクリニック在宅医療部では、部屋を仕切らず、ワンフロアに結集。フラットな組織だからこそ、職種に関係なくものが言い合え、自然に和気あいあいとした雰囲気が生まれる(写真:桜新町アーバンクリニック提供)
桜新町アーバンクリニック在宅医療部では、部屋を仕切らず、ワンフロアに結集。フラットな組織だからこそ、職種に関係なくものが言い合え、自然に和気あいあいとした雰囲気が生まれる(写真:桜新町アーバンクリニック提供)

 情報共有のシステム化で結束した「チーム・遠矢」。今、メンバーによる「発明」ラッシュが続いている。全国に先駆けて6年前から始めた「認知症初期集中支援チーム」の取り組みもその一つだ。

 在宅医療・介護の現場におけるICT(情報通信技術)活用のパイオニア、「桜新町アーバンクリニック」(東京都世田谷区)院長の遠矢純一郎さん(52)を唸らせたスタッフがいた。同院の作業療法士、村島久美子さんだ。

 世田谷区に住む女性は認知症の初期段階で、「大好きな料理ができなくなり、イライラすることが多くなった」と家族から相談を受けたのが支援の始まりだ。自宅を訪問した村島さんらは、台所で女性の「調理」の動きを確認した。すると、女性は短期記憶の低下により、作業の途中に向きを変えるたびに、次に何をすべきか忘れ、混乱していることがわかった。方向転換を極力少なくする家具の配置に変更すると、もとのように調理が継続できるようになった。

 遠矢さんは、「彼女らが補助したことは動線の工夫だけで、薬いらず。医者の僕にはとても思いつかない発想でした」。

 日本で在宅医療が制度化されたのは、2006年。在宅医療に携わる先輩から、「始めて20年になるけれど、一年じゅう患者さんのために街から出ないようにしているんだ」と聞き、「そんな赤ひげの医療(一人診療)じゃ広がらない。患者さんのためになる新しい赤ひげの医療を『システム化』し、持続可能なグループ診療体制をつくらねば」と考えたという。

 折しも、開院した09年は日本でiPhoneが発売された翌年。手にした遠矢さんは、「このツールを何に使えるか?」と模索を始めた。

「システム化」が必要なのは、複数の医療・介護事業所と連携して行う在宅医療には、非効率な面があるからだ。しかも、患者にとっては「ホーム」でも、医者にとっては外来と違う「アウェー」の現場。がん患者も多く、「ジェットコースターのような症状の変化」に対応するためにも、情報共有は必須だ。

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