今では、iPhoneが24時間365日のチーム診療を担う最強ツールに。カメラ、カレンダー、LINE、地図、スキャナーと、情報共有のために全スタッフが各種アプリを使い倒している。患者情報が絡むやりとりは、機密性を保ちつつ地域連携できるシステムを開発した。

 カルテ作成も、「ICT+チーム体制」により迅速化。診療後に医師が口述した音声ファイルをクラウド上に保存。専属スタッフが文字に起こしてカルテの下地をつくり、医師が確認してカルテを完成させる。患者とフェース・トゥ・フェースの診療に時間を割けるようになった。

 さらに、患者に承諾を得た上で、クラウド上でチーム内にカルテを開示し、治療方針や処方した薬の情報を共有したことで、「メンバーの自律性が高まった」(遠矢さん)。患者への生活援助の手がかりを得て、それぞれがより専門性を発揮するように。

 在宅版の「肺炎治療クリニカルパス」の作成。より重い症状を抱えながらの在宅生活を支援する「看護小規模多機能型居宅介護事業」の立ち上げ。メイキング映像入り「腰痛体操」のDVD作成……。

「発案は全部僕以外から(笑)」

 とはいえ、システム化しても、顔が見える関係が構築される前は、「ICT? 何それ?」とせっかくのツールも使ってもらえず、「ICTの前に“人”ありきだと痛感した」。

 チーム・遠矢の秘策は、半年に一度の「クジ引きによる席替え」。「お隣さん」が変わるたびに、疎遠だったメンバーとも絆が生まれる。

 千差万別なニーズを掬い個別の「最適」をこしらえるオーダーメイドの在宅医療を支えるのは、最強のチーム力なのだ。(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2018年6月4日号