鈴木:僕は「キス大喜利」だと思って作ったんです。そのくらいのつもりで書かないと印象に残らないなと思ったから。

吉田:でも、脚本に書かれていてもどれくらいの「強度」でキスをするかは書かれていない(笑)。役者さんにお任せでした。私はひそかにキスシーンもそれぞれの個性が出るなと思いながら受けていました(笑)。

鈴木:鋼太郎さんの口説きは緊張しました?

吉田:台本を読んだときはいかにもなセリフに「そりゃないわ」って思いましたけど、撮影現場では鋼太郎さんが万全の態勢で雰囲気を作ってくださるので、本当に乗せられていく。だから、こちらが応えないと、その温度差に私が損しちゃう(笑)。だったら乗っちゃえって。

鈴木:わかるな。カメラを引いたときの羊さんの顔が……。

吉田:女になってる? あれは鋼太郎さんに引き出していただきましたね。

鈴木:僕は映画でもドラマでも小説でも、ありそうでないことが一番優れていると思っているんです。なぜこれをやらなかったんだろう、とかね。この映画のように女性が主人公で三つの恋をする、しかも大人が見られて、楽しい気持ちになれる。映画館を出た後に(映画に出てきたゲームの)「太鼓の達人」をやったり、水族館へ行ってシャチを見たり。同じシーンをまねしたいなと思ったり、楽しい気持ちになってほしい。それが、この映画を作った僕の、一番大きな思いですね。

吉田:私は最初に申し上げたように、この映画のテーマである、人生において無駄がないということが伝わると一番うれしいです。最後の最後に飛鳥さんがどんなに傷ついてボロボロになっても、最終的にはそれがあったからこそ今がある。今の自分を肯定してあげているからこそ、すがすがしく見ていただける。恋でも仕事でも一歩踏み出すことを躊躇しない生き方の後押しになったらいいなと思います。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年5月14日号より抜粋