せめて、出産した病院で行われる産後1カ月健診のときに赤ちゃんを亡くした女性が話を聞いてもらうことができればいいが、多くの病院ではただ母体の回復状態を診るだけで終了してしまう。

 赤ちゃんを亡くした親たちの背中をそっと押し、 再び前を向いて歩き出すためには「グリーフケア (悲嘆の援助)」が重要となる。

「流産・死産経験者へのグリーフケアが行われるようになったのはここ十数年のことで、世界的にも思いのほか最近のことです」

 こう話すのは、20年近く前から周産期(妊娠22週から生後7日未満まで)の死について向き合い、『赤ちゃんの死を前にして 流産・死産・新生児死亡への関わり方とこころのケア』『赤ちゃんの死へのまなざし 両親の体験談から学ぶ周産期のグリーフケア』(ともに中央法規出版)などの著書や編著がある産婦人科医の竹内正人さんだ。

 グリーフケアについては、1970年代にイギリスで「周産期の死別」が研究されるようになり、母子の愛着が妊娠中に形成されるという研究も積み重ねられ、欧米を中心に普及したという。日本でグリーフケアが普及していく契機になったのが、2002年に周産期に子どもを亡くした11家族が体験を実名でつづった『誕生死』(三省堂)の出版。その後、助産師を中心に、医療現場でのグリーフケアへの関心が高まった。

 竹内さんによると、日本では長い間、周産期の死は「なかったこと」として扱われ、産科でも死産児を「ヒト」として意識してかかわることはなかった。出生直後の新生児死亡の場合、戸籍に残らないように死産として届け出る慣習さえあった。

 グリーフケアの重要性はわかってきたものの、まだ発展途上の段階だ。

一般社団法人日本グリーフケア協会会長で、自治医科大学看護学部の宮林幸江教授は言う。

「死別の悲しみが心や体にどのような変化をもたらすのか、どういった経過をたどるのか、それを知るだけで、『みんなも同じなのか』『私だけが特別ではなかったんだ』と救いの1つになります」

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