宮林さんによると、死別を経験した人は、「亡くなった人への思慕の感情の喪失を優先する思いと、死別後の生活の変化に対応しようとする理性の現実優先が併存した不安定な日々を生きている」という。死別による心身の反応を「悲嘆(グリーフ)」というが、研究によって、悲嘆は次のようなプロセスをたどることがわかってきた。

<急性期>
 死別直後は、感情反応がなくなったり、狼狽したりするなど、急性期反応が出やすい。過呼吸や過換気症候群、手足の冷え、胸の圧迫感など、身体症状が現れる人もいる。

<ショック期>
 悲哀をあまり感じずに、必要な行動は淡々とこなすことができる時期。緊張感がとても強く、過敏な状態にある。死別の衝撃に耐えかねて体調不良を併発していくケースもある。

<本格的な悲嘆の時期>
 宮林さんの研究によると、日本人の悲嘆の反応には4つの特徴があることがわかった。それが、(1)思慕、(2)疎外感、(3)うつ的不調、(4)適応対処の努力―だ。

(1)の「思慕」は亡くなった人をいとおしい、恋しいと思う気持ちのことで、4つの反応の中で最も強く出ることが多いという。もう一度会いたいと願ったり、無意識に思い出がよみがえったり、遺骨などに向かって話しかけたり。「朝起きたらカーテンが揺れていたのはきっとあの人が来たからだ」などと、さまざまなことを関連付けて、近くに故人の存在を感じるのも思慕による反応。宮林さんによると、写真や遺骨に話しかけるなど、亡くなった人が存在するかのように感じながら回復していくのは日本人の悲嘆の特徴だという。

 亡くなった人を追い求めようとしていると、いつまでも悲しみから抜けられないと考え、遺族に対して「早く忘れなさい」と助言する人もいる。でも、思い出を振り返り、故人が自分の中に生きていることを感じて、そこから再び人生を歩んでいくほうが回復が早い。ただ、赤ちゃんを亡くした場合は一緒に過ごす期間が短く、思い出も少ない。だからこそ、出産後に対面して抱っこしたり、沐浴したり、かわいいお洋服を着せたり、といった思い出をできる限りつくっておくことと、「できることはした」という思いとが、悲嘆から早く回復する手助けになるという。

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