ござ・ゆういち/歴史学者、国際日本文化研究センター助教。1980年生まれ。著書に『応仁の乱』(中公新書)など。近著に『陰謀の日本中世史』(角川新書)(撮影/岸本絢)
ござ・ゆういち/歴史学者、国際日本文化研究センター助教。1980年生まれ。著書に『応仁の乱』(中公新書)など。近著に『陰謀の日本中世史』(角川新書)(撮影/岸本絢)

 SNSの発達で「フェイクニュース」が氾濫している昨今、情報の真偽を見極める力がこれまで以上に求められている。デマに騙されないための心得を、歴史学者で国際日本文化研究センター助教の呉座勇一さんに聞いた。

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 陰謀論って、すごく分かりやすいんです。応仁の乱にしても、実際には複数の要因が絡み合って起きたことですが「日野富子が元凶」とすると、原因が一つだけになります。ただ、ここが逆説的なんですが、実際は単純化されているのに、一般の人は「教科書的な歴史の裏に隠された真実」と、陰謀論にどこかハイレベルな印象を抱きがちです。特定の人や組織が陰謀の計画を精緻に組み上げて、すべてその通りに動くという図式にはパズルのピースがぴたりとはまるような爽快感がある。ですが、実際の歴史はいろいろなプレーヤーがそれぞれに考え、読みが外れて軌道修正したりするうちに、事態が動いていくものなんです。

 陰謀論にハイレベルな印象があるからこそ、高学歴の人や知的レベルの高い人がハマってしまいやすい傾向にあります。今まで自分が考えもしない新説が展開されるので、新鮮に感じてしまうんですね。ただ、歴史の知識がない人にとっても、陰謀論は受け入れやすい。教科書的な歴史をきちんと学ぼうとすると大変ですが、陰謀論だと1冊本を読めばいいだけですし、「コミンテルンが悪い」「フリーメイソンが悪い」とすれば複雑な太平洋戦争も一気に分かりやすくなります(笑)。

「マスコミが報じていない」といううたい文句につられ、フェイクニュースを信じる人もいます。「報道をうのみにする一般大衆と違い、真実をつかんでいる」と優越感を感じたいんですね。確かに浅い報道があるのも事実ですが、真実にたどりつくためには、さまざまな角度からの丁寧な調査が必要です。人より優位に立ちたいが努力はしたくないという横着な人こそ、デマに惑わされやすいと思います。

 今回書いた『陰謀の日本中世史』は、立教大学での授業を基にしているんですが、学生の中には「先生はそう言いますが、僕はやっぱり本能寺の変に黒幕はいると思う」という、歴史にロマンを求めるタイプも一定数いました。

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