■稲垣えみ子/アフロ画報 稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
■稲垣えみ子/アフロ画報 稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
言葉の通じぬ異国で自立しきれなかった私は、ついつい酒に逃げてしまいました…(写真:本人提供)
言葉の通じぬ異国で自立しきれなかった私は、ついつい酒に逃げてしまいました…(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】異国へ行った筆者はついつい…

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 再びリヨン話で恐縮です。いやね、曲がりなりにも異国にて「観光」ではなく「生活」を志してみると、グローバル社会といわれる割には、異国の常識が日本のそれと全く違うことはなはだ多く、なるほどこれもアリかと驚く。で、ついつい人様に聞いてほしくなるのだよ。

 で、中でも聞いてほしくてしょうがない「常識」が、リヨンのおじさん(及びおじいさん)は自立しとる!ということであります。おばさんはまあ東京もリヨンもそう変わらない。でもおじさんが全然違うんだよ! まずオシャレ! どこがどうってわけじゃないんだが、体や雰囲気になじんだジャケットをさらりと着てクルクル首に巻きものをして、色や素材の組み合わせがなんとも絶妙。彼らは「自分に似合うものを知っている」のであります。で、そのおじさん連中が朝早くからマルシェで買い物。りんごやらジャガイモやらビーツやらチーズやらをあれこれ吟味して買っていく。料理をしてる人間が見ればわかることですが、これは日々自らフツーに料理する人の買い物です。

 で、ほーんと元気なんだわ。杖をついたおじいさんだって胸を張って堂々と出歩き、しょっちゅう顔見知りに会ってニコニコおしゃべりしてる。引きこもり感ゼロ。それを見てたら「自立」と「つながり」はセットなんだって思ったんだよね。自分で自分に似合う服を選び、好きなものを作って食べることができるって、つまりは自分で自分を楽しませることができるということ。生きることに自信があるっていうこと。だからどんどん外に出ていける。

 そう思うと、日本のおじさん(特に定年後)が孤独な理由がわかった気がしました。自立ってお金を稼ぐことだけじゃない。会社とお金に依存して自分で自分の面倒を見ることをサボっていると、結局は自分で自分がわからなくなって、だから新たなステータスを求めて起業だ投資だと右往左往してしまう。でも肝心なのはそこじゃないんだきっと。まず料理。洗濯。掃除だよ。おじさん頑張れ!

AERA 2018年4月16日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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