「そこに立っているだけで、役以上の“生き方”がにじみ出る俳優さんでした」(坪川拓史監督)(写真:坪川拓史さん提供)
「そこに立っているだけで、役以上の“生き方”がにじみ出る俳優さんでした」(坪川拓史監督)(写真:坪川拓史さん提供)
「モルエラニの霧の中」では、室蘭で老舗写真館を営む頑固な主人を演じた(写真:坪川拓史さん提供)
「モルエラニの霧の中」では、室蘭で老舗写真館を営む頑固な主人を演じた(写真:坪川拓史さん提供)

 その突然の訃報に、日本中が言葉を失った。

【写真】スタッフに囲まれながら演技をする大杉漣さん

 2月21日午前3時53分、俳優の大杉(おおすぎ)漣(本名・大杉孝=たかし)さんが急性心不全で亡くなった。66歳だった。亡くなる直前まで、テレビ東京系のドラマ「バイプレイヤーズ」の収録に参加。撮影後の20日深夜に腹痛を訴え、同ドラマで共演する松重豊さんが付き添って病院に運ばれたが、数時間後に息を引き取った。まさに、「急死」だった。

「いくらでもいいよ」

 大杉さんは徳島県小松島市生まれ。1974年、無言劇で知られる劇団「転形劇場」に入団。ロマンポルノやVシネマ出演などでの下積みを経て、劇団解散後は映画に活動の場を広げた。41歳だった93年に北野武監督の「ソナチネ」の暴力団幹部役で注目を集めると、同監督による98年の「HANA-BI」では車椅子の元刑事を演じ、多くの演技賞を獲得。評価を確かなものにした。硬軟問わず役を演じ分けることから「300の顔を持つ男」とも称された。私生活ではバンドなどの音楽活動に加え、J2徳島ヴォルティスを熱狂的に応援するなど、大のサッカー好きとしても知られた。

 大杉さんが出演する「最後の映画」になるかもしれない作品がある。2019年春に公開を目指す映画「モルエラニの霧の中」だ。同映画は北海道室蘭市に住む坪川拓史監督が手掛け、室蘭を舞台にした短編から成るオムニバス作品。地元市民が応援団となり、資金を集め、撮影を手伝い、キャスト出演もする「ご当地映画」だ。スポンサーに頼らないので、製作費も超低予算。だが、大杉さんはその姿勢に共感し、出演を快諾してくれたという。坪川さんが語る。

「漣さんは周囲に『映画はみんなで作るもの』と言っていて、ギャラは通常よりゼロがいくつも少ないはずなのに『いくらでもいいよ』と。撮影後のあいさつで言ってくれた『この映画で同じ船の乗組員になれて本当にうれしい。同じ船でこのまま進んで行きましょう』という言葉は今でも忘れられません」

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