「毎月約15万円の返済をキャッシングでやりくりしていたのですが、どこも貸してくれなくなった。明らかな多重債務者でした」
「子どもの貧困」が叫ばれて久しい。2017年6月に公表された、15年の子どもの貧困率は13.9%、7人に1人の子どもが相対的貧困状態にあるわけだが、ひとり親世帯に限ってみれば貧困率は50.8%、2人に1人が貧困だ。ちなみに、ひとり親世帯の約85%が母子世帯と推計される。
国際的に見れば、日本のひとり親世帯の就労率は約86%と、OECDの国の中で最も高い(ドイツ、フランス、アメリカなどは70%未満)。にもかかわらず、相対的貧困率は群を抜いて高くなっている。その鍵は就労形態にある。母子世帯の就業者の内訳を見れば「正規の職員・従業員」が44.2%なのに対し、「派遣社員」4.6%、「パート・アルバイト等」が43.8%と非正規職が計48.4%で正規をしのぐ。
長年、母子世帯の調査・研究を行ってきた神戸学院大学教授の神原文子氏は「母子世帯の多くはなぜ貧困なのか」という問いへの実証研究において、「非正規化のさらなる進行と、673円(06年度)から823円(16年度)へと150円しか上昇していない、最低賃金の低さ」を真っ先に挙げる。
児童扶養手当と児童手当を受給しても年収220万円という貧困基準ギリギリだ。
「女性の貧困元年って、いつだと思いますか?」
神原氏が発したのは、思いもよらぬ問いだった。
「1985年です」
1985年──労働者派遣法と男女雇用機会均等法が成立した年だ。
「一部のエリート女性が男性並みに働くことを応援する制度ができたと同時に、非正規化という非常に不安定な働き方の種類が増えた。非正規の拡大と同時に、賃金格差が決定的になりました」
政府はより積極的に“女性格差”を制度化する。国民年金の第3号被保険者制度(85年)、パート所得の配偶者特別控除制度の創設(87年)など、専業主婦を優遇する制度が、この時期につくられていく。
ひとり親についても、85年は分水嶺(ぶんすいれい)となった。この年、政府はこれまでの児童扶養手当に、全額と一部支給という2段階制を導入、手当の大幅削減に踏み切った。一方、死別の母子世帯に対しては遺族年金制度を創設、充実した社会保障が完備された。神原氏の指摘は鋭い。
「夫に扶養され家庭を守った女性は、夫が死んだ後も死ぬまで守りましょう。家庭から勝手に飛び出した女性には、最低限の保障しかしません。これが、この国の女性への姿勢です」