「夫婦に子ども」という“標準家族”内にいる女性は守るが、シングルマザーやシングル女性はその範囲ではないと、明らかな“女性格差”の制度化が始まったのが85年だったのだ。

90年代、右肩上がりに離婚が増えると政府はひとり親政策を「保護」から「就労支援」へと切り替えた。02年に母子寡婦福祉法と児童扶養手当法を改正、全額支給の所得制限を年130万円未満(母子2人世帯の場合)に引き下げ、収入が増えるほど支給額を減額するスライド方式を採用。5年受給の後は支給額を半額にするとした。神原氏は言う。

「働けば働くほど支給額を減らすって、残酷な制度です。5年後に半額にするという規定については、年数が長くなったからとはいえ、収入が増えるわけではないことを政府が認識して凍結されましたが」

 実は私自身もシングルマザーとして、一部支給に減額された身だ。就労に力を入れると政府は言うが、提示された施策に使えるものはなく、アドバルーンを上げただけだと痛感した。月10万円を2年間支給されても、看護師資格を得るための看護学校と生活を両立できるとは思えない。

 先進国のシングルマザーの就労率が日本より低いのは、シングルマザーは子どもをケアする存在だという認識が根底にあってのことだ。日本のシングルマザーは、世界一働いている。それでも国はもっと働け、自立しろと迫る。

 小林真波さん(仮名、55歳)は20年前に離婚した。不倫に浮気、生活費を渡さないなど社会的DVが原因だった。長男は小4、長女は小2、次男は小1だった。真波さんは大卒だが専業主婦期間が長く、仕事は介護職のパートしか見つからなかった。夜勤免除を条件にした勤務の給料は、月に14万円ほど。

 暮らしが暗転するきっかけは教育費だ。長男が公立高校に落ち、私立に進学。この3年間の学費で真波さんの貯金、300万円が全て消えた。2年後、長女も私立高校へ。自治体の「母子福祉資金貸付金」から約300万円を借り、次男の私立高校の費用も同貸付金から200万円の融資を得た。さらに長男が私立大学に進学。父の会社を引き継いだ元夫は裕福だが、学費を依頼しても「大学に行かせた、おまえが悪い」と拒否。再度貸付金300万円を借りる。元夫は、養育費は一切支払わないが、子どもと会った際、20万円など多額の現金を渡し、長男には「おまえが会社を継げ」と話した。長男は大学を中退、元夫の会社へ就職した。

「長男の貸付金を今、返していますが、65歳までかかります。それまで持つかどうか。クレジットカードのリボ払いやキャッシングで補填してきた分が、雪だるまのように大きく膨らんで、毎月の支払いがとんでもない」

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