死菌でも作用するのは、商品開発において大きなメリットとなる。冷蔵保管の必要がなく、ウォータータイプのペットボトルドリンクにもできるからだ。

 一方、「植物性」に“ならでは”を見いだしたのは、トマトと野菜の会社、カゴメだ。「植物性乳酸菌ラブレ」シリーズを06年から販売する。乳酸菌開発では後発のスタートで、02年11月に雪印ラビオを合併買収。翌年カゴメラビオと社名変更し、本格的に開発をスタートさせた。すでに大手乳業メーカーなどガリバー的存在もいる中で、野菜や果物といった自社リソースを駆使して独自路線を編み出したいと行きついたのが、植物性乳酸菌のラブレ菌だった。自然健康研究部の鈴木重徳さんは言う。

「ラブレ菌は、京都のルイ・パストゥール医学研究センターの故・岸田綱太郎博士が京漬物のすぐきから発見した菌。植物にすむ乳酸菌の研究が活発化したのも90年代に入ってからです」

 確かに「乳」のイメージと植物は結びつかない。一体どんな特徴を持つのか。

「動物性は人間が長い歴史の中で飼いならしてきた菌。牛乳を発酵させる環境も人肌ぐらいの温度で、たんぱく質や脂質など栄養豊富。生きていきやすい環境です。一方で植物性は漬物の中にいるぐらいですから、置かれている環境は塩分も酸分も強く、温度も低い。それでも生き延びるワイルドさがあり、“じゃじゃ馬菌”と呼ばれたりもします」(商品開発部長の矢賀部隆史さん)

 動物性が過保護に育てられたお坊ちゃまなら、植物性はたたき上げの荒くれ者か。ただし、じゃじゃ馬なだけに、開発は一筋縄ではいかなかった。矢賀部さんは続ける。

「低温でも元気がいいため、お店に並んでいる状態のときに発酵が進んでしまう。さらに発酵の過程では乳酸だけでなく酢酸や炭酸ガスも作り出すので、その制御に苦労しました」

 動物性は酪農が盛んな欧州で研究が活発だが、植物性の研究はほとんどないとか。前出の鈴木さんらは、全国から16種類の地場の発酵漬物を集め、数にして1千株ほどの乳酸菌を分離。

「ユニークな特徴を持った菌も見つかっています」。近くまた、朗報が届くかもしれない。(編集部・高橋有紀)

AERA 2018年1月29日号より抜粋