転職先のベンチャー企業に不信感を抱くようになったのは、3年ほどたったころだ。あまりの忙しさに意識していなかったが、ふと気がつくと身分はあいまいなまま。「正社員として採用し、ゆくゆくは新規事業の責任者に」という話だったはずだ、と問いただすと、

「君みたいな実力がある人間は、うちの正社員では満足できないだろう。副業もあることだし、あえてさまざまな仕事に取り組んでみるほうが実力を出しきれるのでは」

「副業OK」だったはずなのに、副業のための休暇も途中抜けも認められないことも、納得がいかなかった。正社員ではないので有給休暇がなく、休むにはその都度、何かしらの理由が必要。次第に「親戚を殺す」しかなくなって、副業の仕事関係者には、「今日は誰を殺してきたの」とからかわれる始末──。

 社内の細かい規則の順守も要求された。例えば、「就業時間は朝9時から夜6時。直行・直帰の場合は申請が必要」。仕事柄、直行・直帰が多く、申請をせずにいたら総務部から激しく非難された。「正社員でも契約社員でもないから」と言っても通じず、「タイムカードすらまともに押せない人間は正社員にできない」とまで言われた。

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