なぜ、妻は夫に殺意が生まれるのか…(※写真はイメージ)
なぜ、妻は夫に殺意が生まれるのか…(※写真はイメージ)

 料理、風呂、着替え、寝かしつけ。朝も夜も家事・子育てに追われる。疲労困憊する妻を尻目に、夫は――。こうして殺意が生まれる。

 カチャッ。

 時計の針が22時を過ぎると、決まって玄関のカギを開ける音が聞こえる。まるで、子どもたちが寝静まったのを見計らったかのように帰ってくる夫に、金融機関に勤める妻(40)は、「またか」と、怒りが爆発する。

「ちょっと。大変だったんだけど。今頃帰ってくんじゃねーよ」

 思えば、朝から夫は地雷を踏みまくっている。

 4歳と2歳の息子2人を保育園に送り出すまでは戦場のよう。ご飯を食べるのも、着替えをするのも子どもは「ママがいい」と、だだをこねる。少し離れたソファで「自分の出番はないな」と踏んだ夫が新聞を読んでいると、妻は激高する。

「私は自分の着替えも化粧もできてないのに、なんであんたは優雅に新聞なんか読んでんのよっ! こっち来て子ども見てよ!!」

 そして、夫がコーヒーでも飲んでいようものなら「死ね、コノヤロー」と絶叫してしまう。この瞬間、“殺す!”と思う本気度は高い。

 保育園にお迎えに行き、子どもを連れての買い物。途中で騒ぐ、兄弟げんかも始まる。帰宅後すぐに「おなか空いたー」の大合唱。料理、食事、風呂、着替え、寝かしつけ。どれも至難の業だ。時計を見ながら、「早く帰ってきてよっ!」とイライラが止まらない。

 夫がいても、「パパ、イヤ! ママがいいー!」と2人が口を揃えるため、夫は「どうせ、僕がいたって何の役にも立たない」と、プチ“フラリーマン”(=まっすぐ家に帰らない男性)化した。

「1分1秒でも早く帰ってきて! できないなら離婚です」と冷たく言い渡すと夫は少し早く帰ってくるようになったが、「もうあとは寝るだけ!」というタイミングで帰ってくるから迷惑なだけ。子どもは興奮して、寝なくなる……。

 休みの日、殺気立つ妻のご機嫌をとろうと夫は料理や食器洗い、買い物をこなすが、実は、それが逆効果でもある。

「私は、子どもから離れて家事をしたいんですけど!」

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小林美希

小林美希

小林美希(こばやし・みき)/1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年からフリーのジャーナリスト。13年、「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。近著に『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』(NHK出版新書)、『ルポ 保育格差』(岩波新書)

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