「周りが過度に気を使ってくれる分、こちらも遠慮して、仕事は中途半端になった。心が仕事に残ってしまうせいで育児にも全力投球できない。これでは働いている意味がないと思った」

 次男の出産後は土日勤務の際は夫に預け、平日は夕食を終えるまで保育園に預けるスタイルに。会社の残業制限制度を利用しつつ、興味のある教育分野を重点的に取材している。

「園の夕食は栄養バランスも緻密に考えられていて、私が作るより健康的(笑)。子育て政策を検証する立場の私たちも、変わるべきです」(本田さん)

●風土が変わらなければ

 実際、社内に色濃く染みついた「男性的価値観」を変えようと試みる企業もある。

 今年4月、佐川急便などを擁するSGホールディングスは、東京事務所近くの自社ビルにグループ初となる企業内保育所「SGH Kids Garden」をオープンした。2011年にトップダウンの女性活躍推進プロジェクトが発足。従業員の8割が男性で、社内は圧倒的に男性社会だったが、「収益の30%を女性が担う」を目標に従業員や管理職の女性比率アップを目指す方針に舵を切った。

 各営業所に女性専用トイレや更衣室を設置することから始め、育休や時短勤務の期間も延長。企業内保育所の開設は懸案だった。人事部シニアマネジャーの小林香織さん(43)は、保育所の開設は女性従業員の復職支援だけでなく、男性従業員の意識改革という狙いもある、と話す。

 次男(1)を預けるグループ会社社員の中島佑介さん(36)は江戸川区在住。認可保育所の年長に在籍する長男(6)のときはなかなか入所できず苦労した。次男も同様で、送り迎えの利便性も考えて企業内保育所を選んだという。

「家事と送迎は妻と分担。自宅から1駅なので、私の職場近くにすれば便利だと思いました」

 男性社員にはこんなふうに育児に参加するよう促したい、と小林さんは言う。

「制度をつくっても、風土が変わらないと実効性を持ちません。理解は体験から生まれます」

 8月には栗和田榮一会長、町田公志社長をはじめ国内各事業会社の社長がイクボスを宣言。男性の育児休業取得の目標値設定も検討しているという。

「女性が働きやすい職場は男性にとっても働きやすい。女性の活躍推進がひいては従業員全体のワーク・ライフ・バランス向上につながります」(小林さん)

(編集部・作田裕史、石田かおる)

AERA 2017年9月18日