「撮影中はどうしても電話に出られない。気づいたら保育園から何十件も着信があって息子が大変なことになっている、という悪夢を見ます(笑)。子育て中の女性カメラマンはゼロに近く、私もこの園がなければ、仕事は諦めていたと思う」

 この園の園長で、全国夜間保育園連盟会長の天久(あまひさ)薫さん(67)は言う。

「夜間保育園というと、いわゆる夜の仕事をするシングルマザーが子どもを預ける場所というイメージが強いかもしれないが、いまは違う。残業が多い公務員、マスコミ、医者なども多くいます。うちの園に通う46世帯のうち、約5割は会社員で、あとは飲食店などの自営業です」

 夜間保育園は、働き方を変えられない業界で働く親たちの「最後の砦(とりで)」なのだ。

 夜間保育園が国の制度として認められたのは、1981年。それ以前は劣悪な環境で子どもが死亡する事故などが相次ぎ、行政も対策に乗り出した。だがいまも、認可の夜間保育園は全国でわずか82園。増えないのは、

「行政側に『夜間保育園が増えると育児放棄を助長する』という間違った認識が残っているから。子どもにとってよくないのは夜間保育ではなく、『夜間に子どもの世話をする人がいない』という環境です」(天久さん)

 ソフトウェア企業に勤務する三浦孝之さん(30)は、長女(6)が1歳のときからこの園に預けている。クライアントの都合に左右される仕事で、急な対応を求められると断れない。飲食店で深夜まで働いていた妻とは、昨年10月に離婚した。

「ここに預けている限りは、クライアントの急な依頼にも対応できる。それに、園にはいろいろな立場の人がいるし、シングルでも引け目は感じません。ただ、小学校に上がった後が不安です。小学校内の学童では遅くまで預かってはもらえないので、仕事を変えることも含めて、どうするか考えています」

 本田彩子さん(33)も3歳の長男と1歳の次男を預けて西日本新聞の記者として働く。事件や事故が起きれば現場にかけつける社会部員。小さな子を持つ女性記者は少ない。しかも夫の勤務地は鹿児島県で、平日の育児は本田さんのワンオペだ。

 入社5年目で長男を出産した後は極端に仕事をセーブして午後6時前にはお迎えに行った。

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