ジェームズは幼少時代、両親の離婚によってオーストラリアとイギリスを行き来する生活を強いられた。転校続きで友人ができず、社会にうまくとけこめなかった。18歳でミュージシャンを目指してロンドンに来たが挫折し、ドラッグに溺れ、ホームレスになってしまう。著作にも映画にも、ロンドンの人々がホームレスに冷たい目を向ける状況が描写されている。

「あれが実際に僕の経験したことなんだ。ホームレスは薬物依存や心の病、移民、家族からの虐待などそれぞれにいろんな事情を抱えている。でも行政や一般の人はどうしても『ホームレス』とひとくくりにして考えてしまう。だから支援の手を差し伸べようとしても、それぞれの事情にマッチせず、うまくいかない。僕の経験を発表できたことで、人々のホームレスに対する見方が少しでも変わるのであればとても誇らしく思う」

●声なきものの代弁を

 自分の過ちを認め、それに向き合った経験を正直に書いたことが世界の人々の心を動かしたと思う、とジェームズ。

「もちろん美しいのボブの存在とともにね。自分が声なきものの声を発せられる立場になったのだから、それを発していく責任も強く感じている」

 現在、ジェームズは「ビッグイシュー・ファウンデーション」などホームレスの自立支援のチャリティーや募金活動などに参加し、スポークスマンとして講演をしている。動物のための活動も多く、動物福祉の活動組織「Blue Cross」や「RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)」、猫を守るための組織「Cats Protection」などに関わっている。

「音楽も続けていて、作曲もしている。アルバムを完成させるのが目下の目標かな。僕を主役にしたアニメーションシリーズが作られることになって、それにも協力しているんだ」

 実は最近、ボブに妹ができたのだという。

「まだ1歳にならないくらい。友人が子猫を何匹か保護して、里親を探していたので引き取った。ボブと彼女の関係も良好だよ。いまは僕と2匹の3人暮らし。これからもずっとボブと一緒に人生を過ごしていくよ」

 日本滞在中は特別の許可を取り、ホテルで一緒の部屋に宿泊。取材のない日は一緒に街に出かけたという。いまジェームズのFacebookには無事にロンドンに戻り、自宅でくつろぐボブの姿が投稿されている。(ライター・中村千晶)

AERA 2017年9月11日号