「戦前は『富国強兵』、戦後は『経済成長』という一つの目標に向かって、“集団で一本道の急な坂を上る”という求心的なベクトルが極端に強まり、江戸時代まではゆるやかだった『空気』の抑圧性が一気に強まりました」(広井教授)

 人口トレンドは2008年のピークを経て、人口減少の時代に入った。前出の広井教授は、現在の出生率が続けば2050年には人口が1億を切ると予測されているが、このような人口カーブの変化の激しさが日本の特徴だとして、こう言う。

「ちょうど私たちは頂点から落下する縁にある、時代の転換点に立っています。そしてこれまでの急カーブのゆがみが働き方や少子化に表れています」

 日本の歴史の中で、「勤勉」「真面目さ」といった価値が強調されるのは、明治以降のことであり、それは元来の日本社会の特性ではないという説もある。

「本格的な人口減少社会を迎えるこれからは、本来の日本がもつゆるやかさや伝統も見つめながら『なつかしい未来』に回帰していくでしょう。それは『希望』だと思います」

 そして、広井教授は唱える。

「“集団で上る急な坂道”から解放され、各人が自分の好きな道を歩んでいくことに日本社会の可能性があります。集団を超えて個人がつながることができるよう、新たな価値や原理の共有を図る必要があります」

(編集部・渡辺 豪)

AERA 2017年8月14-21日号

著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら