(撮影/今村拓馬)
(撮影/今村拓馬)

 相次ぐ政権の不祥事、押し寄せるSNS圧。批判なき政治を目指す政治家に、笑えない芸人。怒る気力も失われ、何もかもが面倒くさい。この不機嫌と無気力は、いったいどこからやって来るのか。AERA(2017年8月14-21日号)では「日本の境界線」について特集。同調圧力やこの国を覆う不機嫌の正体について考える。集団が醸す「空気」を読む特性はいつ、何によって醸成されたのか。

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 京都大学の広井良典教授(公共政策)は、日本社会を覆う「空気の呪縛」を指摘する。

「会社という組織の同調圧力の強さに加えて、経済格差も大きい現在の日本社会では、職場以外の逃げ場や居場所が見いだしにくい状況にあります。若年層の過労自殺には、そのしわ寄せを弱者にかぶせる傾向が露骨に出ています」

 世界価値観調査(1999~2002年)によると、「友人・同僚・宗教・スポーツ・文化グループ」といった仲間との付き合いが、日常的に「ほとんどない」「まったくない」と回答した日本人は15.3%。先進国の中ではワースト1位と「社会的孤立度」が際立つ。広井教授は言う。

「この調査で浮かぶ日本人の社会的孤立の特徴は、集団を超えたつながりが弱いということです」

●稲作の遺伝子と黒船

 集団のウチとソトをはっきり区別し、ウチに向けては非常に気を使う半面、ソトに対しては無関心であったり閉鎖的であったりする。集団の論理を最優先する背景には、所属する集団からはじき出されると、たちまち社会の中で居場所がなくなる怖さや不安がある。

 そうした集団が醸す「空気」を読む特性はいつ、何によって醸成されたのか。広井教授は、西暦800年以降の日本の総人口の長期的トレンドに基づき、日本人の集団的行動を特徴づける2段階の転換に着眼する。

 第1段階は「稲作の遺伝子」に由来する期間だ。稲作は水の管理など集団的同調を求める生産構造をもつ。そうした生活様式の中で培われる行動パターンは弥生時代以降、約2千年間に及ぶ。これが「同調性の基盤」となり、ゆるやかに増え続けた人口は江戸時代後半に約3千万人で「定常化」した。第2段階の転換期は明治以降だ。1853年の「黒船来航ショック」を契機に人口曲線はほぼ直立するほどの急激な増加時代に入る。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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