「諸君、脱帽したまえ。天才だ」 藤井聡太が払拭した将棋界の不安 (2/5) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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「諸君、脱帽したまえ。天才だ」 藤井聡太が払拭した将棋界の不安

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松本博文AERA
佐々木勇気五段(現六段)に敗れて連勝は29でストップした藤井聡太四段(右)=7月2日午後9時43分、東京都渋谷区の将棋会館 (c)朝日新聞社

佐々木勇気五段(現六段)に敗れて連勝は29でストップした藤井聡太四段(右)=7月2日午後9時43分、東京都渋谷区の将棋会館 (c)朝日新聞社

第2期電王戦終了後、笑顔で記者会見に臨む「PONANZA」開発者の山本一成さん(中央)と佐藤天彦名人(右)=5月20日、兵庫県姫路市 (c)朝日新聞社

第2期電王戦終了後、笑顔で記者会見に臨む「PONANZA」開発者の山本一成さん(中央)と佐藤天彦名人(右)=5月20日、兵庫県姫路市 (c)朝日新聞社

「いまの将棋界は斜陽産業」

 06年の新人王戦表彰式であいさつに立った糸谷哲郎四段(現八段)は、そう言い放ち、関係者を慌てさせた。だから自分たちの世代で立て直さなければならない、という決意表明へとつながるのだが、その表現はともかく、明晰な若者の認識が間違っているとは、ほとんど誰も思わなかった。

 将棋が日本を代表する国民的娯楽であることは、今も昔も変わらない。しかし、人々の趣味が多様化する中、将棋を指す人口は、1980年代前半をピークとして、長期低落傾向にある。業界では今でも「将棋人口1千万人」と称しているが、現実には、16年発行の「レジャー白書」によれば、その数は500万人余りにも落ち込んでいる。

 現代の囲碁・将棋界は、新聞紙上に掲載される棋譜を提供する代わりに、新聞社から契約金を得ることを、基本的な経営戦略としてきた。たとえば名人戦(朝日新聞社・毎日新聞社共催)や竜王戦(読売新聞社主催)はそれぞれ(対局料、賞金などを含めて)数億円単位の規模である。もし将棋に興味がない人が増えてしまえば、そのビジネスモデルも安泰とはいえない。

 将棋界を取り巻く環境は厳しくなりつつあった。ただし、盤上の技術に関しては、日進月歩で向上を続けてきた。厳しい競争を勝ち抜いた棋士は、依然その実力をもって、ファンから尊敬を受ける存在であることに変わりはなかった。しかし、そこに意外な闖入者が現れた。それがコンピューター将棋ソフトである。

●藤井は1年余りでできたコンピューターは20年も

 計算力や記憶力に優れたコンピューターが、将棋や囲碁を得意とするならば、もう何十年も前に、名人よりも強くなっていたはずである。

 コンピューター将棋の開発は、74年、瀧澤武信(当時早大院生、現教授)らによって始まった。当時の優秀な専門家たちは、ごく最初の段階で、コンピューターにとって将棋ほど難しい分野は、そうはないと認識していた。9×9の平面上で、40枚の駒を使う。ただそれだけの道具立てである。しかし将棋は、もし初手から勝負がつくまでの全部の局面を読むとすると、10の220乗という、人間からすれば無限とも思われるほどの、深く広い可能性が存在する。そうであればこそ、昔から、多くの人々が将棋に魅了され、飽きもせずに遊び続けてこられたのだ。


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