委員会採決省略の強行採決、実在した「怪文書」……。「安倍一強」のもと、自民党はなぜここまで傲慢になってしまったのか。その源流を「政・官の関係」「派閥弱体化」「小選挙区制」の現場で考察し、いかにして現在の一強体制が作られていったかを明らかにする。AERA 2017年6月26日号では自民党を大特集。ノンフィクション作家・評論家の塩田潮氏に、話を聞いた。
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自民党には、国民の安全や生活の保障を担う統治政党と、国家・国益重視の保守主義のイデオロギー政党という側面がありますが、圧倒的に後者は少数派でした。保守イデオロギーは脇に置き、豊かで安全な国づくりは他党に任せられないという自負がありましたが、統治政党としての能力の低下が目立っています。
政権を奪還した自民党は、政権維持について、過去の三つの政権から、その失敗を繰り返さないことを教訓として学習しました。(1)第1次安倍内閣からは、保守イデオロギーを封印し、民意に沿った政治を推し進めること、(2)福田康夫内閣と麻生内閣からは、「衆参ねじれ」を回避し、与党で過半数を確保するため、自公連携を維持すること、(3)民主党政権からは、経済運営を最重視し、高い統治能力を備え、党分裂を招く大胆な政策転換は行わないことです。
自民党では「ずっと与党」が議員、党員とも最大の共通合意で、安倍首相でなければという意識は強いわけではない。政権復帰と自民党再建に成功したので、そろそろ賞味期限切れでお役御免も、という空気が党内にはあります。
自民党は野党時代の3年3カ月、谷垣総裁の下でどんな党として再生するか議論し、一度は3党合意に乗って消費税増税に傾斜しましたが、安倍首相は経済産業省主導という異色のシフトを選択し、財務省寄りの増税路線を封印しました。祖父の岸信介元首相は経産省の前身の旧商工省の出身で元商工相、父の安倍晋太郎氏も通産相を経験していますが、二人とも蔵相はやっていない。その人脈の流れも影響していると思います。
(構成/編集部・小柳暁子)
※AERA 2017年6月26日号