レッスンでもバレエ団への指導と同じく、ディテールを大切にし、ポジティブに声をかける。「スーパーバレエレッスン」を地で行く模範演技に、ギャラリーからも「おおっ」とため息がもれた。指導を受けているのが奥田志温くん(撮影/今村拓馬)
レッスンでもバレエ団への指導と同じく、ディテールを大切にし、ポジティブに声をかける。「スーパーバレエレッスン」を地で行く模範演技に、ギャラリーからも「おおっ」とため息がもれた。指導を受けているのが奥田志温くん(撮影/今村拓馬)

 偉大なダンサー、マニュエル・ルグリが日本に帰ってくる。パリ・オペラ座バレエ団引退から8年。時代の変化を意識しつつ、カンパニーも国境も越えた人選で、真摯にアートと向き合っている。

 パリ・オペラ座バレエ団の歴代エトワールの中でも、優美で知的な技法で、ひときわ高い人気を集めたマニュエル・ルグリ(52)。21歳で巨匠、ルドルフ・ヌレエフに抜擢(ばってき)されて以来、クラシックからコンテンポラリーまで、世界第一線の振付家やダンサーとともに、バレエ芸術の世界を深化させてきた。そのキャリアは、過去半世紀で最も偉大な男性ダンサーと呼ぶのにふさわしい。

 2009年に44歳でオペラ座エトワールを退いた後は、同じ欧州の名門、ウィーン国立バレエ団の芸術監督に就任し、正統と革新をもって、バレエの新しい地平を開き続けている。

●日本とは特別な関係

 そのルグリが今夏、「ルグリ・ガラ~運命のバレエダンサー~」と題したガラ公演を、大阪、名古屋、東京で6回にわたって行う。

 英国ロイヤル・バレエ団からマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフ、ロシアのボリショイ・バレエからオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンという、当代最高峰コンビを招くほか、自身もオペラ座で黄金時代を築いた名ダンサー、イザベル・ゲランとのパートナーシップを復活させる。ともにヌレエフの薫陶を受けた50代の、粋で円熟した舞台がいまから期待を集めている。

 ルグリならではのプログラムですね、と水を向けると、

「スケジュール調整が難しい人ばかりなのに、みな友人として協力してくれて」

 と、あくまでも控えめ。その謙虚さが、日本人の美徳とする感覚に重なる。

 そもそも、ルグリと日本との縁は深い。オペラ座在籍中の1990年代から「ルグリと輝ける仲間たち」と銘打ったガラ公演をシリーズで開催。00年代にはオペラ座の後進に指導を行うお宝映像が「スーパーバレエレッスン」としてNHK教育テレビ(現Eテレ)で放映されて、ファンを喜ばせた。

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