いま最大の心配は、飲み水だ。マンションの地下にはコンクリート製の受水槽がある。最低でも1年に1度は法定点検を行わないといけないが、おそらく数年単位で一度も点検はされていない。衛生上の問題がかなり懸念されている。先の女性は言う。

「そんな水を飲むの、怖いです」

 荒廃化するマンションが増えている。過疎地の限界集落ならぬ「限界マンション」が静かに、でも確実に広がっているのだ。日本にマンションが登場したのは50年代前半。一戸建てが無理な世帯の持ち家志向の高まりを受け、60年代に本格的な分譲が始まった。現在、分譲マンションの数は約613万戸。一般的に、コンクリートの寿命は60年程度だ。

お金が全然足りない

『限界マンション』などの著書がある富士通総研経済研究所主席研究員の米山秀隆さんは、建物と住民の「二つの老い」が進んでいると指摘する。

「建物の老朽化と同時に区分所有者の高齢化も進んでいきます。その結果、空室化や賃貸化が進み、マンションの管理組合の機能が低下して維持管理や建て替え対応が難しくなっています。こうして管理不全になったマンションは、限界マンションになる危険が生じてきます」

 国土交通省によれば、築40年以上のマンションは全国に51万戸(2015年)。それが10年後の25年には3倍の151万戸、20年後の35年には6倍の296万戸に達する。限界マンションは他人事ではないのだ。

 東京・渋谷。最寄り駅から徒歩5分という好立地に立つ4階建てのマンション。“花の東京”の中心部に立つマンションも、荒廃化が進んでいる。

 昨年このマンションの管理組合理事長になった男性(50)は嘆く。

「いろんなところを直していかないといけない。だけど、お金が全然足りない」

 竣工したのは80年。管理組合は一応あったが、すべて「管理者」と呼ばれた人の裁量で行われた。修繕積立金は一戸当たり1千円。当然、大規模修繕をするだけのお金は貯まらなかった。

 外壁にはひびが入り汚れもひどい。外階段はさびだらけで、ところどころに小さな穴も開いている。一昨年には、給水管の破損による漏水で、3階から1階まで水浸しになった。敷地内の一角は粗大ごみ置き場と化していた。自転車、布団、傘……。引っ越していった住民が、そのまま捨てていった品々だ。撤去費用がかかるので、放置したままになっている。粗大ごみの山はトタン板で囲っているが、先の理事長は自嘲気味に話す。

「中にの死骸があってもおかしくないと思います」

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