「日本は予防主義で、農薬など国際基準より厳しく規制しています。危ないと思えば使わせないという考え方。ところがアメリカは危険であることを科学的に根拠が示せなければ問題ないとして使っています。相対で交渉する2国間協議では圧力をかけやすいので、食の安全基準を下げさせられる恐れは十分にあります」(柴田氏)

 東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏もこう指摘する。

「たとえば米国では牛肉や豚肉に女性ホルモンであるエストロゲンが投与されています。これは発がん性があるとして、EUでは禁止されています。また、アメリカでは運んでいる間に腐らないように農作物に防カビ剤をかけています。現在、日本では防カビ剤を食品添加物に分類したうえで、日本への輸出を許可しています。ところが、食品添加物は表示する義務があるため、米国は不当な差別だと言い始めた。日本は改定する方向で約束しているので、いずれ表示が消える可能性はあります」

 将来的に国産食品は希少価値となって価格は高騰し、富裕層しか食べられなくなる可能性もあるという。食に安さだけを求めるのは命を削ることになるのだ。

「一人ひとりが目の前の安さに踊らされず、安全でおいしい日本の農業を守る意識、買い支える意識が必要です。これからの時代は消費者の出番です」(柴田氏)

(ライター・内山賢一)

AERA 2017年2月27日号