VRで知覚を変える/東京大学廣瀬・谷川・鳴海研究室ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン/錯覚で空間知覚を操作する「視触覚リダイレクション」と呼ぶ技術を開発。狭い室内で無限に歩き回るゲームなどへ応用できそうだ(撮影/高井正彦)
VRで知覚を変える/東京大学廣瀬・谷川・鳴海研究室ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン/錯覚で空間知覚を操作する「視触覚リダイレクション」と呼ぶ技術を開発。狭い室内で無限に歩き回るゲームなどへ応用できそうだ(撮影/高井正彦)
ヒューマノイドロボット/東京大学情報システム工学研究室/左から災害対応向けの「JAXON」、東大助教の浅野悠紀さん(28)、生活支援をする「HRP-2」、人の筋骨格を再現した「腱悟郎」(撮影/写真部・長谷川唯)
ヒューマノイドロボット/東京大学情報システム工学研究室/左から災害対応向けの「JAXON」、東大助教の浅野悠紀さん(28)、生活支援をする「HRP-2」、人の筋骨格を再現した「腱悟郎」(撮影/写真部・長谷川唯)

 不老長寿、難病治療、災害救助──。一昔前ではSF小説の世界でしか見られなかった技術が、現実の世界で身近になりつつある。より人間らしく幸せに生きられる最新技術を探った。

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 バーチャルリアリティー(VR)のヘッドセットをかぶると、記者はエレベーターの前に立っていた。扉が開き乗り込んで最上階に行くと、そこは高層ビルの屋上で、手すりのない工事用通路が目の前にある。

 実際は安全な部屋の中にいると分かっていても、その高さに足がすくむ。こわいので視界に入った壁に自分の手を触れる。現実にもそこに壁があるようで、壁に触れながら、おそるおそる通路を歩いた。

 しばらく真っすぐに通路を歩き続けたあと、ヘッドセットを外して周りを見渡して、あっと声を上げた。さっきまで触れていた壁が、円柱形をしていたのだ。真っすぐに歩いていたつもりが、実は円形に沿ってカーブしながら歩いていたことに気づいた。

●行動や感情を変える

「真っすぐの道を見ていることに加えて、壁を触っていることで錯覚を起こし、真っすぐ歩いているように感じるのです」
 と、このシステムを開発した東京大学講師の鳴海拓志さん(33)が種明かし。さらにこう続ける。

「人の感覚はあいまいです。五感に入る情報を、本人が気づかないうちに少し変えることで、行動や感情を変えたり、その人の能力をうまく引き出したりすることもできます」

 鳴海さんたちはこんな実験もした。テレビ会議の画面に映し出されたお互いの表情を、本人たちに気づかれないように画像処理して少しだけ笑顔にした。テレビ会議で繋いだ2人にテーマに従ってアイデアを出してもらったところ、何もしていない状態と比べて、1.5倍の量のアイデアが出たという。

 見た目の表情が良いため、その場の雰囲気が良くなり、アイデアが出やすくなったようだ。

「VRで感覚に働きかけることで、人が変わり、現実の世界を変えることもできるのです」(鳴海さん)

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