「塩分控えめのお味噌汁でも、普段と同じ味にすることも可能です。塩味を濃くするだけでなく、好みの味を再現できるようにもしたいですね」

 と安藤さんはにやり。高血圧の人にはおいしく食べられる減塩ラーメン。ダイエット中の人にはステーキの味がするこんにゃく。そんな食事も、できるようになるのかも?

 人間そのものを変える──。そんな技術が医療分野で続々と登場している。

 生命の設計図であるゲノム。描かれた遺伝子のうち、狙ったものだけをピンポイントで変える技術が「ゲノム編集」だ。これまでは分裂が盛んな細胞でしかできなかったが、米ソーク生物学研究所研究員の鈴木啓一郎さん(39)と理化学研究所研究員の恒川雄二さん(36)らは、神経細胞や筋細胞といった、ほとんど分裂しない細胞でも使えるようにした。これによって、脳や筋肉など全身のさまざまな細胞にある遺伝子も、自在に操れる可能性が出てきたのだ。

●老化を予防し長寿に

 この技術を使って、目の病気を引き起こす遺伝子を持つラットの治療にも成功。鈴木さんたちがこの研究成果を今年11月に論文発表すると、世界中から、共同研究などに関する連絡が相次いだ。ゲノム編集による遺伝子治療の実現に、大きく道が開けたのだ。

「将来は遺伝性の難病の遺伝子治療として応用していきたい」

 と鈴木さんは表情を引き締める。

 毎日サプリメントを飲むだけで老化を防ぐことができる──。そんな夢の実現に向けて、今夏から日米共同の臨床研究が始まっている。

 きっかけは、「サーチュイン」と呼ばれ、長寿に関わるとされる遺伝子の発見。体内のさまざまなタンパク質の働きに関わり、老化を制御している。慶應義塾大学教授の伊藤裕さん(59)は「これこそが、すべての生命に共通する根源だ」と興奮する。

 そのサーチュインを活性化する物質の生成に関わるのがNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)。全身の臓器で、細胞の正常な代謝を助けて老化を予防している。

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