農業の世界を変える最新技術も誕生している。酪農家にとって、乳牛の発情行動から見極める排卵日予測は死活問題だ。乳牛が妊娠しなければ搾乳ができないからだ。発情を見逃すことによる潜在損失は、日本の酪農全体で560億円にものぼるという。

 今年8月、牛の活動量から自動的に発情を予測するウェアラブルデバイスが登場した。センサー付きの「首輪」を牛につけるだけで、人工知能の力を借りて、発情などの状況をパソコンやスマホに送ってくれるのだ。

 開発・販売を手がけるITベンチャーのファームノート社長の小林晋也さん(37)は言う。

「酪農家にとって使いやすいことが重要。スマホで利用できるようにシンプルに作りました」

 活動量を常時計測し、そのデータをもとにアルゴリズムが発情を推定する。牛には個体差があるが、その牛のデータが数日分集まれば、機械学習と呼ぶ人工知能の働きで発情を推定する精度を上げる。

 カメラ映像から実際の牛の行動とセンサーのデータを照らし合わせることで、さらに精度を高めている。今後は、病気の事前予測もできるようにしたい考えだ。

●スマホを使って診療

「こんにちは、今日の調子はいかがですか?」

 と、新六本木クリニックの来田誠院長(36)が話しかけているのは、パソコンの画面。画面の向こう側で患者が応えた。
 ITベンチャーのメドレーが開発した遠隔診療システムは、テレビ会議のようにパソコンやスマホを使って、患者は医師と話しながら診療を受けられる。今年の2月にサービスを開始すると、これまでに200以上の診療所などに導入された。

「生活習慣病やうつ病、アレルギーなど、定期的に診療を受ける病気では患者が通院をやめてしまうことが問題になっています。遠隔診療では診療を受けやすいため治療が継続しやすくなります」

 と同社代表取締役医師の豊田剛一郎さん(32)は言う。医療や健康管理のあり方が変わりそうだ。(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年1月2-9日合併号