忘れている人が多いが、独裁と民主制は相性が良い。ヒトラーもムソリーニもペタンも、立法府が「私たちにはもう国家の重大事を議するだけの能力がありません」と自らの無能を宣言したせいで民主的手続きを経て独裁者になった。立法府が見識と威信を失えば民主制は自動的に行政府独裁に移行する。別に、ある日行政府の長が「私は独裁者だ。私に逆らうことは許さない」と芝居がかった宣言をしてから始まるものではない。議会が機能していないことを繰り返し誇示しているうちに、立憲民主主義は壊死するのだ。

 いま私は個別の法案の適否を論じているのではない。国会の存在理由が日々掘り崩されていることに当の議員たちの多くが進んで加担していることに絶望しているのである。(内田樹)

AERA 2016年12月26日号

著者プロフィールを見る
内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

内田樹の記事一覧はこちら