だが、女性らの怒りは治まらない。ここで明らかになったのは、女性の地位が比較的高いとされている米国でさえ、地位を振りかざした「セクハラ」が横行しているという事実だ。

●告発はハリウッドでも

 トランプ氏を告発した女性のうちの一人は、「トランプ・グループに雇ってもらえると思っていた」とし、自分の就職のためにセクハラがあったことを黙っていたと告白している。前出のリーズさんは、30年以上も口をつぐんでいた。

 大統領選という一大イベントとしては異例だが、候補者によるセクハラが浮上したことで、政界以外からもセクハラに対する告発が相次いでいる。ハリウッドの女優が役を得るために、セクハラを我慢してきたことなどが、オンラインでは次々に明らかになっている。

 ネットワークテレビ局NBCは、ワシントン・ポストがスクープした前出の女性蔑視発言ビデオで、トランプ氏をけしかけていたタレント、ビリー・ブッシュ氏を、出演番組から降板させた。同氏はブッシュ前大統領のいとこだが、今後、どの局の番組と契約するのかは不明だ。

 月刊誌「ワシントン・マンスリー」は、人類学者の意見を載せ、「トランプ氏は、オスのチンパンジーが群れを支配するための示威行為に出ている姿を思い出させる」と皮肉っている。

 主要政党の首脳候補者が女性を蔑視し、差別し、暴行さえした可能性を看過すべきではない。こうしたことを認めれば、世界の女性への攻撃と受け止められるだろう。トランプ氏には、女性蔑視以外にも批判されるべき点は多いが、過去のセクハラ問題で、彼の支持者が再考すべきなのは間違いない。(ジャーナリスト・津山恵子/ニューヨーク)

AERA 2016年10月31日号