折衷案として、武田選手が推すのは、戸田漕艇場(埼玉県戸田市)の施設が活用できる彩湖だ。多くの大学、実業団の艇庫、合宿所がある戸田漕艇場はナショナルチームの練習場でもある。そこから約2キロの彩湖は淡水で、内陸ゆえ風も穏やか。東京からのアクセスも悪くない。ただ、湖岸を削ってコースを新設すると、都の試算では整備費が558億円と高額になる。

●彩湖なら90億で可能?

 ボートの国内の競技人口は約9200人で、メダルの実績はない。費用対効果で尻込みする都に、戸田漕艇場を使う団体指導者らでつくる「戸田監督会」事務局長の和田卓さんは反論する。

「土木会社に依頼した試算では、約90億円で可能です。都の試算の根拠が全くわかりません。ボート競技は艇庫、宿泊施設、水の三つがそろって成立する。それがあるのは彩湖だけです」

 こうした状況について、日本ボート協会の事務局長・相浦信行さんはこう語る。

「彩湖は大雨で荒川が増水したときに水をためる調節池。管轄の国土交通省は、彩湖でのボート場建設を許可していない。越えられないハードルがあるのです。協会は、海の森が最も適した会場との認識に変わりはない」

 小池旋風が巻き起こした荒波は、しばらくおさまりそうにない。(編集部・作田裕史)

AERA 2016年10月24日号