●わが子の一言、原因か

 遠く離れた首都圏で、そんな2件のニュースを報じるテレビをつらい思いで見ている50代の女性公務員がいた。昨年9月下旬、中学3年だった息子の同級生の男子が命を絶ったからだ。

「快活で明るい子でした。聞いたときはまさかと思った」

 理由は定かでないか、保護者と衝突し家を飛び出したまま、帰らぬ人となった。男子の両親が学校側に「原因はわかっているから何も調査しないでほしい」と頼んだこともあり、周囲の親たちの間で男子の死はタブー同然のまま卒業式を迎えた。

「実は、私の息子はその子とLINEのやり取りをしていた。書いた文言を聞いたときはドキッとしました」

 友人関係に悩んでいた男子が「俺のこと嫌いな人多いのかな?」とLINEで尋ねてきたので、軽い気持ちでこう返した。

「いっぱいいるんじゃね? そうやってウジウジしてっからだよ」

 息子には「LINEの文章では、自分が思うことが相手にきちんと伝わらないこともあるよ。大事なことは顔を見て伝えなきゃ」と言って聞かせた。

 その後、男子の両親と会ったが、「息子さんとのやり取りは原因ではありませんから気にしないで」と言われた。「ウジウジして」以外に、息子は励ましの言葉も伝えていたようだった。

「息子は当時は明るく振る舞ってましたが、やはり傷ついたでしょう。どうしたら防げたのかな、ってママ友とはいまだに話します」と女性は目線を落とす。

●中高年の自殺減の裏で

 厚生労働省が7月に発表した自殺対策白書によると、2015年の自殺者数は2万4025人。過去10年で最少だった。なかでも中高年の自殺が著しく減った。相談事業を強化した秋田県が14年、自殺死亡率全国ワーストを20年ぶりに返上(2位)するなど、大人の自殺予防対策の効果が表れている。

 これに対し、子どもの、とりわけ中学生の自殺は増え続けている。

 15年の中学生の自殺者は102人で、17年ぶりに100人を超えた。子どもの数が減っているにもかかわらず増加傾向にあり、1980年以降でみると女性アイドル歌手が自殺した86年(133人)に次ぐ多さだ。人口10万人当たりの自殺者数を表す自殺死亡率は、中学生で2.94人と最多を記録した。

 今年4月、改正自殺対策基本法が施行された。10年ぶりになる改正の主な点は「子どもの自殺対策」。学校は保護者や地域と連携し、児童・生徒のこころの健康を保つ教育(自殺予防教育)や啓発活動を行うことなどが新たに盛り込まれた。

 しかし、自殺予防教育の具体的な内容は各学校に任されている。「何から手をつけていいのか、よくわからなくて困っている」(前出の男性教師)などと、途方に暮れる学校関係者が多い。

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