●気球・船も基地局に

 地震では各社とも3.11同様、伝送路の断絶に見舞われた。土砂災害で崩落した阿蘇大橋付近を伝送路が走っていたのだ。しかし、「太平洋と日本海の2ルートだった基幹伝送路をもう一本新設。本州の真ん中を通る中央ルートを増やしたことで、一本が断絶しても他の2本で継続できた」(池田氏)という。

 サービス復旧が困難な孤立エリアには、衛星を通じて交換機とつなげる衛星移動基地局などを活用。停波エリアをカバーするために、“中ゾーン基地局”を展開したことも奏功した。これは遠隔操作により基地局のアンテナ角度を変更し、通常半径1キロ程度のカバーエリアを3~5キロに拡大する方法だ。これらの施策により、メール通信はもとより、音声通話も瞬時に利用可能なまでに回復したのだ。

 さらに、熊本地震では3.11時にはなかった復旧策も導入された。その一つが、ソフトバンクの気球型基地局だ。

「郊外エリアで半径5キロ程度のエリア回復に成功しました」(木村氏)

 携帯キャリア3社共同でWi-Fiを無料開放する「ファイブゼロジャパン」も、熊本地震で初めて実施された。ネットワーク名「00000JAPAN」を選択すれば、キャリアを問わず誰でも利用できる。

 では、首都圏直下型地震が発生した場合にも、同様に迅速な対応が可能なのか? ドコモの池田氏は次のように話す。

「人口密集地の通信を確保するため、中ゾーン基地局よりも広い半径7キロをカバーする大ゾーン基地局を全国106局設置してきました。東京にはそのうち6局がある。こうした非常用設備の導入により、首都直下地震が起きても即日、通信規制を解除できるような体制を整えています」

 KDDIは船舶型基地局の導入に向けて動いている。

「昨年、鹿児島での実証実験を経て、今年3月に関連法の改正が実現しました。これで、津波被害で停波したエリアや被害の深刻な離島も海上からカバーできるようになった」(木佐貫氏)

 首都圏直下型地震が発生しても、通信インフラは短時間で復旧すると考えていいだろう。ただし、ユーザーにも備えは必要だ。前出の高荷氏が話す。

「災害発生時は重要通信が確保されるよう、ユーザー側も音声通話を控えてメールやLINE、災害用伝言板などで安否確認をするよう心掛けるべきです」

●紙焼き写真を携帯

 一般に、音声通話は基地局と交換機を介して、2者を通話用回線で繋ぐ。その間は、通話者が回線を独占するかたちだ。一方で、メールやツイッター、LINEなどのサービスでは、パケット通信用回線が用いられる。通信データを1パケット(小包)ごとに分けて送信するため、他のデータ通信とも回線を共有可能だ。回線が混雑すれば遅延することはあっても、音声通話のように「繋がらない」ことはない。そのため、メールアドレスやLINEのIDなどを家族写真に裏書きするなどして携帯することが大事なのだという。

「被災時にはバッテリー切れになる可能性も高い。そのため、携帯電話に保存されているアドレスなどの情報をアナログでも保存しておくことが重要。写真があれば、さらに避難所での安否確認がスムーズになる」(高荷氏)

 東日本大震災発生時の混乱を繰り返さないためにも、今から備えておきたい。(ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2016年9月5日号