開発したFRONTEO(今年7月にUBICから社名変更)を訪ねた。CTOの武田秀樹さんによると、秘密は、大量の社内文書やメールから不正につながる証拠を洗い出すという、犯罪捜査の分野で同社が蓄積してきた技術にある。例えば、単なる飲み会の誘いに見えるメールの文章から、「前回から時間も経っているので」「個室にしましょう」「◯◯さんも誘いましょう」といったキーワードを拾い上げ、「カルテルの謀議の証拠」と判定する。独自に開発したアルゴリズムでは、これらのキーワードなどを「重みづけ」という手法で分類・学習し、9割以上の精度で不正メールを抽出。すでに国内外の官公庁や法律事務所で使われている。

 その技術を発展させたのがKIBITで、強みは、パターンを学習するための「教師データ」が少なくて済む点。通常の機械学習では百万、千万単位の教師データが必要とされるのに対し、KIBITは場合によっては十数件のデータで済む。すでに社内メールを解析し、離職の原因になりかねない不平不満やパワハラの兆候を見つける、といったサービスも展開中だ。

●私情なくストレス0(ゼロ)

 メールが全部監視されてしまうのか、とまた身構えてしまうが、武田さんはこう話す。

「確かにそこに抵抗を感じる方もいます。ただ、本人も気づかないうちに、一線を越えそうになっていることも多いので、問題が深刻化する前に、警告を出すというのが大事。それにAIには私情はありません。これを人間がやろうとすると、チェックする側、される側双方に相当なストレスがかかります」

 今年後半には、KIBITを搭載したロボットKibiroが一般向けに発売される。得意技は、個人の嗜好を理解したうえでの「おすすめ」だ。ECサイトの一般的なおすすめは、同じ商品を買った人の購入履歴がベースとなるが、Kibiroは、ユーザーが気になったレビューやブログ記事を解析する点が違うという。記者も試した。

「この中にあなたの読んだことのある本はありますか?」

 Kibiroから見せられたリストには、随分前に読んだ『博士の愛した数式』(小川洋子著)があったので、それをチョイス。すると「おすすめ」として提示された5冊の中に、去年読んだ中でのマイベスト『永い言い訳』(西川美和著)と、いつか読もうと思っていた『想像ラジオ』(いとうせいこう著)が入っている! ちなみにアマゾンでは、おすすめされるラインアップは全く違った。

●ドラえもんの頭脳

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