「これまで人事は、経営者や担当者の『世界観』に基づいて行われてきました。HRMOSではその『世界観』をAIで解剖します。文系、理系、体育会系、学歴といった従来の評価軸も、AIで細かく要素分解していくと、本質的にはこれが重要だったのかといったことがわかってくるはず。それを共有できれば、担当者が代わっても、会社としての軸がぶれなくなる」

●AI上司がダメ出し

 あらゆる人事データを紐付けし、ディープラーニングで解析する。学歴や職歴、応募ルート、採用時の評価、関わった仕事、成績、給与、勤怠状況、健康データ。職務経歴書に書かれた文章や、人事評価のコメントまで解析対象となるという。

 仕事のパフォーマンスが思わしくない場合、これまでは「使えないヤツ」と採用された側が責められることが多かった。だが、AIの導入で、採用した側の責任も問われる。好き嫌い人事もなくなる──。めでたいようだが、冷静沈着で感情に流されない「よくできた上司」のようなAIにダメ出しされたらショックか。AI人事はすでに米国などでは始まっているというが、多くの人は受け入れられるのだろうか。

 人工知能学会の前理事で、AIと社会の問題にも詳しい電気通信大学大学院教授の栗原聡さんは、どういう根拠に基づく判断なのか、納得できる形で説明できるかがカギだと話す。

「ただし、ディープラーニングは、判断のプロセスがブラックボックスで外からはわからない。それを解明する研究も行われていますが、現段階では難しい」

 ディープラーニングは、人間の脳の神経回路を模しているとはいえ、AIの情報処理の方法と、人間の脳のそれとは、同じではない。

「人間は3次元で物事を捉えていますが、ひょっとしたらAIは10次元で考えているかもしれない。となるとAIが、人間がわかるように説明するということ自体が不可能という見方もあります」(栗原さん)

 ビズリーチの竹内さんも、現段階ではあくまでHRMOSは「判断材料を提示するところまで」で、「最終判断を下すのはやはり人間」と話す。

●パワハラの兆候も察知

 AIをどこまで信用し、任せるのか──。今後、様々な領域で、そのせめぎ合いが起きるだろう。だが「どうせ機械に人間の機微はわからない」と決めつけるのはまだ早い。文脈やニュアンス、人間の心の機微まで理解するというAIも登場しているのだ。その名は機微にちなみKIBIT(キビット)。なぜ機械にそんなことができるのか。

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