今年一気に「バズワード」と化した人工知能(AI)。AIは、もはや研究室に留まってはいない。私たちのすぐそばで、暮らしや職場を「最適化」し始めている。人間の趣味、嗜好や心の機微まで理解する新しい知能。私たちはAIと、どう付き合っていけばいいのか。
週末のショッピングモール。天井の小さなカメラが、ふらりとある店に立ち寄ったあなたの姿を捉える。
「15時25分、男性、35歳」
解析しているのは、膨大な顔データを「ディープラーニング」で学び、瞬時に性別・年齢を推定できるようになった人工知能(AI)だ。店の裏では店長が、AIが作製した「ヒートマップ」を確認中。このマップには、客の滞在時間が長かったエリアは赤く、短かったエリアは青く表示されていて、客の店内での動きやデッドスペースのありかがわかる。
「一押しのジャケットのあたりが青い。レイアウトを変えよう」
そんな対策を立てることができるわけだ。このシステムはすでに国内のアパレルショップやコンビニ、百貨店など100店舗あまりで稼働している。開発したのは2012年創業のABEJA。CEOの岡田陽介さんは言う。
「ディープラーニングがここ数年で革新的に進化したことが大きい。AIの世界では、大手メーカーが20年かけて到達したレベルを、一晩で超えてしまうぐらいのことが起きている」
AIを使うといっても、大規模な投資の必要はない。店に設置するのは小さなセンサーのみ。すべての処理はクラウド上で完結し、利用料も月数万円からだ。客の立場からすると、何げなく入った店での行動がすべて見られているようで怖い気もするが、
「個人の顔認証はしませんし、サーバーには個人情報に紐づくデータは一切残っていません」(岡田さん)
●シフトや在庫を最適化
このAIによるマーケティングシステムでは、来店者の数、性別、年齢、動線や滞在時間などのデータと、POS(販売時点情報管理)データなどを合わせて解析する。そこからわかるのは「買われなかった理由」だ。POSデータだけでは買った人のことしかわからなかった。POS上の「購入者5人」が、10人入店したうちなのか、100人入店したうちなのかで改善ポイントは違う。前者であれば、集客のためのマーケティング戦略の見直しが必要だし、後者であれば商品の配置や接客を変えなくてはならない。それをAIが「見える化」するのだ。