●ただ一人政治経験なし

 知名度でまさる小池氏に有利とみられる状況を覆したのが、鳥越氏だった。

「敵は自民党だけと思っていた小池さんにとって、鳥越さんの出馬は想定外だっただろう。無党派層の支持という面で、鳥越さんと小池さんは競合する」(前出の政治ジャーナリスト)

 人気投票に陥りがちな都知事選で有利とされる“後出しじゃんけん”を制した鳥越氏。ただ準備不足は明らかで、7月12日に行われた出馬会見でも「公約はこれから考える」と語った。

 4度のがん手術を克服した一方、4年後の東京五輪・パラリンピックは80歳で迎えるため、健康不安を指摘する声もある。また、有力3候補のなかではただ一人、政治経験がない。

 民進党都議の浅野克彦氏は、都知事の資質を、こう考える。
「都には4人の副知事がいて、政策を実現する多くの優秀な職員もいる。都知事に最も必要なのは大局観だと思う。ぶれずに方針を示すことができるかどうかが求められる」
 鳥越氏は出馬の動機について、参院選で改憲勢力が3分の2に達したことへの懸念を挙げた。
 前出の下村氏は、
「国政の課題を都知事選に反映させることには違和感がある。安倍政権の政策は、参院選で国民の審判を受けたはずだ」
 と話す。一方、浅野氏は地方議員の立場からこう見る。

「国から交付金をもらっていない都は、国に言うべきことを言える立場にある。一つの勢力が衆参両院で3分の2を占め、都知事までも同じ考え方になったら、国民の多様な声は国政に反映されるのか。鳥越さんの問題意識はここにあると思う。しかし、都知事選で最初に語るべき論点でない。偏りがあれば、僕も意見していきたい」

(編集部・宮下直之)

AERA 2016年7月25日号