一方、SNSにも負の側面はある。

 4月14日夜、本県立大学4年の喜久村睦貴さん(25)は熊本市内の木造アパートで、経験したことのない地震に襲われた興奮と不安がぬぐえないままネットを開いた。すると、目についたのは「ライオンが逃げた」「原発で火事」など、にわかに信じられない情報だった。

【拡散希望】と付されていると、つい「協力」しなければという思いも頭をよぎる。友人もフェイスブックで拡散していた。誰もが根拠のないデマを容易に信じやすい状況にあると実感した。

 民族差別をあおるような投稿にも接し、喜久村さんは自身のフェイスブックに、「さまざまな情報が錯綜するこういうときこそ物事を判断する冷静さが必要。惑わされないように気をつけてください」とつづった。

 ジャーナリストの安田浩一さんは「SNSはある局面では人の命を救うかもしれないが、情報をうのみにすることで自らを危機に追いやることにもなりかねない」と指摘。今回のデマの場合、「友人から聞いたのですが」「知り合いからの情報ですが」といった書き出しで始まるケースが多いとして、「出所が不明な情報は多くの場合、デマではないか、と疑ってかかる必要があります」と警鐘を鳴らす。

●ドローンで救えるか

 活用できるITは、通信だけではない。

 全国各地から集まった支援物資が、道路の寸断、渋滞などで必要な避難所に、迅速に配送できない。そんなとき、こんな声が上がった。

「(8)ドローンを使えばいいのに」

 渋滞や地形の影響を受けない自律型の無人飛行機、ドローンを物資輸送に使うプラン、実はもう動いている。4月、ソニーモバイルコミュニケーションズなどが出資する「エアロセンス」は、災害時の医薬品輸送の実用化を発表した。事業推進を担う嶋田悟さんはこう言う。

「たとえばインスリンの薬。集落が孤立し、1日でも投薬を怠れば生命の危険に直結する」

 熊本県からの支援要請はないが、今後は活躍する機会があるのでは、と踏む。

 ただ、越えなければならないハードルがある。国産ドローン開発の第一人者、自律制御システム研究所の野波健蔵さんはこう言う。

「積載重量は3キロが理想で、5キロもいけば限界」

 だから、水や食料品などのかさばるものは苦手。運ぶには、複数機を使ってのピストン輸送が必要になる。

 そこで求められるのは、ドローンをどれだけ確保できるかだ。現在、高性能ドローンの価格は「軽自動車並み」と高額で、量産化によるコストダウンも図られなければならない。

 しかし、ドローンが人を救う日は、近い将来やってくるはずだ。

AERA 2016年5月2―9日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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