「海外の方との会食で、ウナギ屋にお連れしようかと思ったら同僚に反対されて、無難な和食屋さんにしたら、その方はウナギが大好きだったことがわかり、しまったと思いました」

 藤本さんは、道に迷っている外国人観光客がいたら、進んで声をかける。「雑談モード」に慣れるためだ。案内をしながら、出身地や観光目的を聞いて会話力を鍛える。

 雑談力とは、どんな力か。国際的な人材研修を手がけるコンサルティング会社、グローバルインパクト(東京)の船川淳志さん(58)は「多パターンの会話に慣れること」と言い切る。

 一問一答形式の英語教育に慣れてきた日本人の多くは、やり取りでいかようにも流れ、正解などない雑談は苦手だろう。むしろ、間違いをおそれず、自分の無知を楽しむぐらいの心構えで雑談に臨むのがいい、と船川さんは言う。

「相手への質問は私たちが思っているより、歓迎されます。知識と知識、知識と経験など、点と点をつなげる力も雑談には大切。さらに、疑問に思ったことはすぐに調べたり、人に聞いたりしてそのままにしない習慣をつけることが、雑談のベースなる教養を高めることになります」

 まずは日本のことについて聞かれたとき、あなたはどこまで答えられるだろうか。アベノミクスとは何? うどんとラーメンの違いは? 就職活動でみんな同じリクルートスーツを着るのはなぜ? などの質問に回答できるだろうか。答えがすぐに出てこなくても大丈夫。知的好奇心のアンテナを高めればいいのだ。

「とどのつまり、雑談とは教養力を磨き、鍛え、新しくしていく最高の機会だと思います」

AERA 2015年11月9日号より抜粋