アニメ「進撃の巨人」が再放送されている。放送するのは「TOKYO MX」。東京ローカルの独立系テレビ局だ。今年で開局20周年の局がたどってきた道は、この作品の世界観と似ている。

 物語の人類は、巨人が支配する世界で生きている。人と巨人の体格差は圧倒的で、まともに戦ったら勝ち目がないが、完全に絶望的な状況でもない。なぜなら、人類は敏捷(びんしょう)性を最大限まで生かした立体機動装置を考案。そこに活路を見いだそうとしたのだった──。

 社員121人。全国に系列局を持つ民放キー局は1千人超がアベレージなのに対し、10分の1の所帯。が、その生存能力は高い。2014年3月期の売上高は126億円。3期連続で過去最高を更新し、今期は155億円を見込む。

 局の人間に話を聞くと、誰もが口をそろえてこう言う。

「この3年、仕事の手ごたえが違う。地デジ化と、放送がチャンネル9(首都圏)に割り振られたことで、すべてが変わった」 

 06年から全国で放送が始まった地上デジタル放送は、11年にアナログ放送からの完全移行が完了。徐々に視聴者を増やしていくなかで、会社を取り巻く空気は変わった。

 MXの主力コンテンツの一つがアニメだ。「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」(金曜24時30 分)などを放送する。週の放送タイトル数は60を超える。これはCSのアニメ専門チャンネルを除けば日本トップで、いまや「アニメを見るならMX」の言葉が聞かれる。

 年間売上高の2割をたたき出す中核。昨年4月、満を持してアニメ事業部が立ち上がった。部長の尾山仁康(45)は、青山学院大学を卒業後、地方局を経て、95年に入社した。しぶとくジャブを打ち続けてきて、しっかりいまをつくってきた。

「キー局とうちでは、メディアパワーが違います。謙虚がモットーです」(尾山)

 アニメ事業が走り始めたのは、05年。「キー局に勝つために」と社内で勉強会をしたとき、「アニメの古典を放送するべきだ」という案が出た。

「アルプスの少女ハイジ」「トム・ソーヤーの冒険」「タッチ」…。いずれも放映権料は比較的割安だった。尾山は言う。

「18時30分から20時。他局は、この時間帯からアニメを引き揚げていました。チャンスだったんです」

 普遍的な魅力を持つコンテンツで、地歩を固める。18時半から20時台。深夜帯にもアニメの放送枠をつくることで、ライトからヘビー層に至るまでファンを獲得した。

AERA 2015年2月9日号より抜粋