全身の筋力が低下する自己免疫疾患、「重症筋無力症」(Myasthenia Gravis、略称「MG」)。難病に指定されているが、詳しく知る人は多くない。そこで一般への周知を目指し、アルジェニクスジャパンがショート・ムービーを公開。フリーアナウンサーの小島奈津子さんを司会進行に、制作に携わった方々に登場いただき、見どころについて語ってもらった。
筋肉がすぐに疲れてしまい、筋力低下が起こる病気
小島:重症筋無力症(以下、MG)は、国の指定難病だそうですね。
村井:手足を動かすと筋肉がすぐに疲れてしまい、力が入らなくなる病気です。神経から筋肉へ情報を伝達するつなぎ目に免疫異常が起こり、運動神経から筋肉へ指令がうまく伝わらず、筋力の低下が起こります。国内の患者数は、約3万人(2018年の全国疫学調査から)と推計されています。
まぶたが下がる、同じ姿勢を保てない、ろれつが回らない
小島:主な症状を教えてください。
村井:体の様々な部位に影響がありますが、特に、目やまぶたのみに影響が及ぶ「眼筋型MG」が全体の約20%、手足やノドなど目以外の全身にも及ぶ「全身型MG」が約80%(※1、2)です。
※1 Murai H, et al: Clin Exp Neuroimmunol. 2014 :5 :84-91
※2 Suzuki S, et al : BMC Neurol. 2014; 14: 142
眼筋型MGには、ものが二重に見える「複視」や、まぶたが下がる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」などがあります。全身型MGは、体幹筋力の低下によって、同じ姿勢を保てない、首が下がる、ものを持てない、階段を上りにくいといったことがあります。ノドの筋肉が機能せずに、飲み込みにくい、しゃべりにくい、ろれつが回らないといった症状も目立ちます。
重症になると呼吸筋が低下するため、呼吸が困難になります。「クリーゼ」という状態で、人工呼吸器が必要です。
小島:ほかに特徴的な症状はありますか?
村井:一日の中でも、午前中より午後、夕方に症状が出やすい「日内変動」があります。また、日によって疲れやすさが違う「日差変動」も特徴です。
うまく発音ができない。声優の仕事をあきらめる?
小島:あらゆる症状があるのですね。それではMG患者である恒川さんと野下さんに、それぞれの症状について伺います。
恒川:私は眼瞼下垂が症状として表れたことに始まり、2001年に診断され、もう20年以上この病気と付き合っています。調子が悪くて体中に力が入らず動けない日もありますが、夫にSOSを出してサポートしてもらいながら過ごしています。
野下:私が診断を受けたのは、2018年です。当初はうまく発声ができませんでした。声優をしているので、「もう仕事ができない」と思ったことも。複視が強いときは台本が見えにくいなど、困ったことが一度や二度ではありません。ここ1年ほどは入退院を繰り返しており、病気と仕事の両立に試行錯誤しています。
患者の日常を描くショート・ムービーを制作
小島:今回、ふたりの患者さんの日常生活を描いた『知ることから始めよう。MGのこと。~患者さんとつくるショート・ムービー MG患者さんの心の声~』を、アルジェニクスジャパンが制作されています。拝見して、患者さんたちの生活のしづらさや気持ちがよく分かりました。恒川さんは、「特にここを見てほしい」というシーンはありますか?
恒川:『佐藤さんのストーリー』で、佐藤さんがプレゼンテーションをするシーンです。会議中に体幹が崩れて座っている姿勢が保てず、首が重く感じて頬づえをつきたい状況に陥ります。でも「態度が悪い」と思われそうなので、辛抱して姿勢を保っているのがとてもリアルでした。
また、指先に力が入りにくいのでペットボトルのフタが開けられない、水を飲むとむせてしまうなど、典型的な困り事を伝えてくれています。
入院、外来、通院頻度など、治療の選択肢は多い
小島:佐藤さんが、医師の診察を受けているシーンがありますね。症状のコントロールで、薬の量をどうするか、外来か入院治療にするかといったことを話し合っていました。会社に迷惑をかけたくない佐藤さんは、外来で治療を受けることを選択し安心したようです。このように、治療法の選択肢は広がっているのですか?
村井:ええ。「副腎皮質ステロイド薬」や「免疫グロブリン静注療法」のほか、血中の自己抗体をろ過や吸着により除去する「血漿浄化療法」や、特定の分子を標的とする「分子標的治療薬」などがあります。胸腺腫を認める患者さんには「胸腺摘除術」を行うこともありますし、他にも「カルシニューリン阻害薬」や「抗コリンエステラーゼ薬」などを用いることも多いです。
飲み薬や点滴、皮下注射など薬のタイプもいくつかあり、通院しなければならない頻度も様々。それぞれの患者さんの生活スタイルに合わせた治療法を選択できるようになっています。
医師に相談するスキルを身につけることも大事
小島:この動画では、佐藤さんと医師がうまくコミュニケーションをとっていることも印象的でした。佐藤さんが、医師と話したあとに前向きになっている姿が描かれています。
恒川:医師とのコミュニケーションは、治療において大切な要素です。そのために、患者も相談するスキルを身につけることが必要だと感じます。
医師に、「症状を治してください」と言うだけではなく、「疲労を感じることなく、孫と一日中遊びたい」「手がけているプロジェクトを終えるまで、入院ではなく外来で対処したい」など、直近や数年先の目標を具体的に伝えると、医師も薬や治療法を提案しやすいのではないでしょうか。
野下:私はMGと関係のないことまで話してしまうところがあります(笑)。でも先生はよく話を聞いて仕事のことも気にかけてくれ、新しい治療を提案してくださいます。先生だけでなく、仲良しの看護師さんたちに勇気づけてもらうことも多く、治療がうまくいかないときも医療スタッフの皆さんのおかげで頑張れています。
医療者にはデータだけに頼るのではなく、患者を見てほしい
小島:医療者側にお願いしたいことは?
恒川:この病気は、地域格差や医療施設間の差が大きいと感じています。同じ脳神経内科でも、MGにあまり詳しくない医師も少なくありません。そのためデータやマニュアルを中心に治療が進んで、患者さんの気持ちが追いつかないことも。生活スタイルや気持ちに共感して臨機応変な対応をお願いしたいし、うまく気持ちを伝えられない患者さんがいることも知ってほしいです。
野下:私は先生とのコミュニケーションを心がけていますが、少しの会話ですぐに点滴して終了という日もあるんです。でも先生もお忙しいので診察に時間をかけない日は、「心配する状況ではない」とポジティブに受け取るようにしています。先生のちょっとした態度や言葉をマイナスに受け取ってしまい反省したことがあるので、患者側の受け取り方も大事ではないでしょうか。
少し休むと回復するので、「怠けているのでは?」
小島:それでは、ショート・ムービー『市瀬さんのストーリー』について伺います。恒川さん、印象的なシーンはありますか?
恒川:市瀬さんが、家族と食事をするシーンです。夕方あんなにグッタリしていたのに、食事のときには元気に。少し休んだので回復したのですが、MGを知らない方からすると、「あんなにしんどそうだったのに」と驚くかもしれません。
村井:これは日内変動によるものです。一般的によく言われるのは、MGは見た目が変わらないので、周囲から理解されにくいということです。MGは「午前できたことが午後はできない」ことなどがひんぱんに起きるため、職場のみならず、家族や友人からも「怠けているのでは」と誤解され、つらい思いを抱える患者さんが少なくありません。
自分が受けている治療法について、学ぶことも必要
小島:恒川さんは患者歴が長いですが、MGとの向き合い方をどのようにお考えですか?
恒川:医師に指示された薬や治療法をただ試すのではなく、自分の体にどのように作用して改善していくかを学ぶ努力が必要です。そのうえで、どういう人生を歩みたいのかを考えること。それが納得した治療にもつながると考えています。同じ病気の仲間や医師などと話し合いながら、前向きにMGと共存できれば理想的です。
知ることを足がかりに、できることからサポートを
小島:最後に、動画を見た方へ期待することは。
野下:『知ることから始めよう。MGのこと。』というタイトルにもあるように、知ることから始めて心に留めてもらえたらうれしいです。私もSNSやブログを通じて、継続的に情報を発信していきます。
恒川:患者さんの中には、自分の体調について伝えることが苦手な人も少なくありません。そんな人が周囲にいたら、少し気に留めてあげてください。そして病気のことを知ることが、理解につながると信じています。見てくださった方には、できることからサポートしていただけたらと思います。
村井:会社の同僚、家族、友人などにMGの患者さんがいたら、思いやりを持って接してほしいですね。接し方や配慮の仕方は、この動画が参考になるので、ぜひご覧いただきたいです。
アルジェニクスジャパンのYouTubeチャンネルで
小島:この動画は、アルジェニクスジャパンのYouTubeチャンネルで視聴できるそうです。野下さんをモデルにしたマンガ動画も公開されています。
病気のことを知らないと、どうやってサポートすればいいか分かりません。私たちはまず知ることが大事で、患者さん自身も誰かに気持ちを伝えてひとりで抱えないことが必要だと感じました。知るということは、患者さんと私たちが、お互いを支い合える大切なファクターとなるでしょう。
この動画をきっかけに、ひとりでも多くの方へ正しい理解が広がることを願っています。
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