新井紀子さん(52)国立情報学研究所教授数学者。2006年から現職。11年から「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める(撮影/編集部・瀬川茂子)
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新井紀子さん(52)
国立情報学研究所教授
数学者。2006年から現職。11年から「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める(撮影/編集部・瀬川茂子)

 ロボット技術の進歩にともない、人間とロボットの共存が現実的な課題のひとつとなってきた。その展望を、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める、国立情報学研究所教授の新井紀子さん(52)に聞いた。

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 国立情報学研究所を中心に「東(とう)ロボくん」を開発している。東ロボくんは体をもつロボットではなく、コンピューターのソフトウェア。2016年に大学入試センター試験で高得点を取り、21年に東京大学合格をめざすプロジェクトを進めている。

「そんなソフトを作っても売れない」とか、「そもそも人間の価値は受験で決まらない」と言われたりするが、それは短絡的な見方だ。

 東大は無理だけれど、すでに私立大学の8割以上では合格可能性80%以上を達成している。私が知りたいのは、偏差値がどこまでいけるかということ。それは、どの仕事まで機械(コンピューター)に任せられるか、どの職種が残るかといった、未来を見通すことに直結するからだ。

 すでにキーパンチャーや電話交換手の仕事は機械に奪われた。「アマゾン」で本を買うと、別の本を薦められるが、これはコンピューターが営業の仕事をしているということ。このままいけば、ホワイトカラーの仕事の半分くらいは奪われるかもしれない。

 マネジメントやサービスといったホワイトカラーの仕事は、産業革命によって肉体労働が機械に置き換わった後、重要になった。ホワイトカラーになるために必要な能力を学校で学んでいる。ある意味、そうした能力を評価しているのが大学入試だ。12年間の学校教育で身につける能力のうち、機械によって代替されてしまうものは何か、代替されないものは何か。機械の限界を明らかにする必要があると思った。

 人工知能の発達で労働の現場は激変する。特に影響が大きいのが「分類する」仕事。

 多くのコールセンターは、この質問にはこの答えというマニュアルで対応している。質問を分類し、数千の模範回答からあてはまるものを選び出す仕事で、7、8割は自動応答ですませられるようになるかもしれない。24時間、日本語でも英語でも中国語でも対応できる。大企業の経理の仕事、薬剤師の仕事、病気の診断、司法判断、いろいろ可能性はありそうだ。

AERA 2015年1月26日号より抜粋