「団塊ジュニア」は、40歳前後の大集団。
現役世代の中では、最大勢力なのだが、「影が薄い」「顔が見えない」などと言われる。
彼らが消費に動くときの鍵は何か。
(ライター・岡本俊浩)

 広告会社勤務の男性(38)は、医薬品業界の妻(39)と共働きで、小学生の子どもが2人いる。世帯年収は1100万円。300万円台も珍しくないいま、十二分な年収だろう。でも、クルマや時計には興味がない。月の小遣い8万円は、仕事や友人との飲み代に消える。息子が好きな仮面ライダーのベルトを買うことはあるが、自分のためだけにする消費は驚くほど少ない。

 日本の人口ピラミッドで第1党は、団塊世代。40歳前後の「団塊ジュニア」はその子ども世代にあたり、第2党に位置している。最後のマス世代として、社会の主役を張っているはずが、消費の場面での存在感は希薄だ。よく言われる「団塊世代=田舎暮らし」「バブル世代=ブランド志向」といった類型も見いだしにくいときている。

●反バブルだが、憧れも

 しかし、この世代を読み解く鍵は、ある。著書に『「バブル女」という日本の資産』などがあるマーケティングライターの牛窪恵さんは、彼らのマインドをこう指摘する。

「反バブル。ああはなりたくないと感じているし、画一的な消費にアンチの立場が基本姿勢」

 子どもの頃はバブル、社会に出たら就職氷河期。そんな世代が「反バブル」になるのは、これまで何度も説明されてきた。でも、なぜ画一的な消費にアンチなのか。それを理解するのに必要なのは、「競争」だ。牛窪さんはこう続ける。

「ベビーブームのなかで生まれたから、同世代が多い。受験競争が激しかったし、校内暴力の退潮後、学校でのいじめが陰湿化した世代でもある」

 激しい競争の裏返しで、「個性重視」「自分探し」の世代になった。自意識が強いから、消費者としては「賢い自分」でなければ満足できない。

「コスパ」や「時短」という合理性にもこだわる。この文脈でブランドを挙げるなら、「無印良品」は代表例だろう。何も低価格だけで、無印良品を買っているのではない。無駄がなく、プレーンな見た目で使い回せる。反バブルという「自分らしさ」を体現してくれるアイコンなのだ。

 牛窪さんはこうも指摘する。

「心の奥底ではバブル世代への憧れがある。『隠れリッチ』な消費をすることがあるんです」

 例えば、この世代の母親で革張りの手帳を持つ人が多い。子どもやママ友との予定が書きこまれた手帳が、エルメス製という人も。リフィル込みで7万円以上はする高額商品だが、ブランドロゴは控えめで、「やっかみ」の目線を浴びることはない。ファストファッションの着こなしにも同じ論法が流れている。着こなしを褒められ、「実はこれ、ZARAなんですよー」と満を持して繰り出す「ZARA自慢」は象徴事例だ。

●抱える大きな自己矛盾

 この世代の消費傾向を「モノを買って満足するのではなく、生の体験に関心がある」と見るのは、博報堂・新しい大人文化研究所の阪本節郎さんだ。

 仲間とツーリングに出かけられる自転車は好例だろう。自分らしく生きたいと思う半面、孤立することへの不安も強いこの世代にとって、人との関係をつないでくれるし、年齢とともに強まるフィットネスへの高い関心ともつながる。

 アラフォーの独身女性向けファッション誌「DRESS」の男性編集長、山本由樹さんは、自分の欲望を全肯定するバブル世代と比べて、「団塊ジュニアは複雑」と話す。

 読者の声を聞くためにメールアドレスを公開している。毎日数十通を超えるメールが届くなか、手厳しい声もあったという。

 昨年12月号で、「もう女子じゃない! 中年であることを受け入れよう!」という見出しをつけたときは、「傷つきました」という非難が返ってきた。大人の女性として堂々と生きていこう。そんなメッセージを送ったつもりが届かない。誌面でアンチエイジングという言葉を使えば、「その言葉は嫌いです」と返される。その時は、「エステでアンチエイジングに熱を上げている彼女たちを、どう捉えたらいいのか」と、腑に落ちなかったという。

 山本さんはこう言う。

「この世代は、大きな自己矛盾を抱えているのではないか」

 ある種の二面性をもった世代をつかまえるために肝要なのは、「理想」と「共感」のバランスではないか。

 今年6月号には、その仕掛けが見てとれる。表紙モデルも務める女優・米倉涼子さんのファッションロケを、下町の銭湯や居酒屋で行っているのだ。米倉さんという「理想」を、銭湯や居酒屋で撮ることで「私たちと同じ場所に立っている」。そう感じてもらう仕掛けだ。

 難しい内面を抱えたこの世代を、社会属性からよりシンプルに考える人もいる。

 博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんは、「子どもの有無」「正規雇用か非正規雇用か」が重要で「年収だけ見ていたら、見誤ることがある」と言う。

 公務員の男性(41)とライターの妻(41)も、夫婦合わせれば年収900万円。ただし、中学生1人、小学生2人の教育費や貯蓄にお金を回すから、夫婦が自由に使えるのは月4万円だけだ。

「子どもがいれば、教育費はかけたい。どこを削るかといえば、自分の消費」(原田さん)

 子育てまっさかり。子どものいる世帯の消費に、マイ消費を期待するのは難しい。彼らの消費は常に「家族」「子ども」とワンセット。仮にクルマを買うとすれば、ファミリーカーだ。フォルクスワーゲングループジャパン広報は、「30代、40代の購入比率が高いのは、シャランなどのミニバン」と答える。

 だから、マイ消費に所得を割けるのは「独身」。「実家暮らしか否か」という世代特有のファクターも加味する必要がある。

●最後の勉強になるのか

 IT関連企業で正社員として働く独身男性(38)は、年収580万円。実家暮らしだが、家にお金は入れないから、手取り月30万円は自由に使える。6万円を外食やゲーム関連に使い、残りをケータイ代や貯蓄に回している。貯金は1千万円。マイ消費の比率では、子どものいる世帯年収1千万円家庭よりも裕福だろう。同じ構造は、年収200万円台の非正規雇用者層にも見ることができる。月に手取りで15万円でも、マイ消費に月10万円はあり得る。

 団塊ジュニアの非正規雇用者層で進む未婚化。このことは、この世代が「趣味の世代」とも呼ばれる一因にもなっている。原田さんは「自分が納得しないと動けない世代。プライドを尊重しながら、刺激する。団塊ジュニアの消費を動かすのは、これしかない」とし、こうも話すのだった。

「団塊ジュニアは、世代をテーマにしたマーケティングにとって『最後の勉強』になるかもしれない。ここでトレーニングしておかないと、後の世代の検証はさらに難しくなる」

AERA  2014年6月9日号