キュレーター/イラストレータートーマス・ニルソン(32)育休中で100%家庭モードだが、「イラストの仕事はしている」と家庭95%、仕事5%に変更。理想は仕事70%、家庭30%。70%にしたのは収入を考慮してのこと。「今の生活に大満足なんだけど」(撮影/編集部・小林明子)
キュレーター/イラストレーター
トーマス・ニルソン(32)

育休中で100%家庭モードだが、「イラストの仕事はしている」と家庭95%、仕事5%に変更。理想は仕事70%、家庭30%。70%にしたのは収入を考慮してのこと。「今の生活に大満足なんだけど」(撮影/編集部・小林明子)

「男女平等」を目指してスウェーデンが子育てを支援し始めたのは、1974年。人々は、仕事も子育ても自分自身もパズルのようにはめ込んで、人生を豊かにしてきた。パートナーとも当たり前に助け合う。そんな「先進国」を取材した。

 指先がしんと冷え、コートの前を合わせたくなるストックホルムの春。昼下がりの公園でベビーカーを押していたトーマス・ニルソン(32)は、ベンチの横で立ち止まった。

「せっかく眠ったのであと20分はそっとしておきます。ここで起こすと後でぐずるから」

 暖房の利いた屋内テーマパークが目の前だが、入館するには長女(1)をベビーカーから抱き降ろさなければならない。子育ても天気と同じで思い通りにならない。そんな感覚にすっかり慣れ、子どものペースに合わせて育児休業中の毎日を楽しんでいる様子だ。

 アクセサリーバイヤーの妻(33)は2013年4月に長女を出産し、10カ月間の育休後にフルタイムで復職。入れ替わりでトーマスが7カ月間の育休に入り、日中の家事と育児を担う。

「2人とも自分の仕事が好きで働き続けたいので、家のことを半々に分担するのは当然です」

 もし彼らが日本の共働き夫婦なら、妻だけが1年間の育休を取り、4月に保育園の0歳児クラスに預けて復職、というのがパターンだろう。しかし、スウェーデンの保育園にあたる就学前学校には0歳児保育がない。夫婦とも、育休を思う存分に取ることができるからだ。

 トーマスはストックホルム近代美術館のキュレーター、いわゆる公務員だ。官公庁や一部企業は国の制度に上乗せし、育休中も収入の90%を支給する。制度は自営業も対象で、トーマスには副業であるイラストレーターとしての収入も80%が支払われるので、育休前とほぼ同じ収入が見込める。

 子どもが8歳になるまで使えるこの制度を、9割の父親が何らかの形で利用している。子どもが生まれたら職場に育休を申請することに、男性も女性もためらいはない。

「もし僕が利益追求型の民間企業に勤めていたら、こんなに長く休むのは難しかったかもしれない。でも妻が長く休めば妻だけがキャリアダウンするリスクがありますよね。両親は育休を分けて取るべきです」

AERA 2014年6月2日号より抜粋