小麦畑 (GettyImages)
小麦畑 (GettyImages)

 小麦に関する限り、原材料費は確かに高騰していた。とはいえ、そもそもなぜシンプルに価格を上げず、内容量を減らすメーカーが多くあるのだろうか。経済評論家の平野和之氏はこう語る。

「巷で行われているステルス値上げの多くは、デフレマインドに由来しています。企業側からすれば、世界各国は物不足で原材料費が上がっており、値上げしたい。しかし、日本はデフレで賃金が上がらず、消費者はお金を使いたがらないため、企業側は価格に転嫁しきれない。苦肉の策として、ステルス値上げをやるしかないのです」

■けしからんの声 ネット通じ増幅

 行動経済学を専門とする明治学院大学経済学部の犬飼佳吾准教授は、ステルス値上げの現状についてこう語る。

「企業側は、消費者は価格に関して敏感でも内容量に対してはそうでもないと考えているのでは。ところが、近年はSNSの発達などにより、消費者の『けしからん』という声が大きくなりやすくなった。『申し訳ないけど、この価格でお願いします』と正直に言えば、消費者も理解を示すはずです」

 経済学では、価格はあくまでも需要と供給のバランスで柔軟に変動する。一概に値上げすることが悪いとも言えないはずなのだが、犬飼准教授は、「安い=正義」という考え方があると指摘する。

「たとえば大地震の後、ガソリンスタンドに行列ができるとします。経済学としては需要が大きいから値上げするという話になりますが、『何か違う気がする』と思うでしょう。本来の経済学の考えとはズレた話なのですが、人々の中には“適正”と考える価格が存在する。この感覚は長い歴史や幼少期の体験の中で育まれます。その適正価格から外れることに我々は敏感で、かつ正義感に強く根ざしていると感じます」

 消費者の“正義感”の琴線に触れてしまうとSNSなどで不満が拡散され、商品のイメージを損ねる結果になりかねない。「情報通信技術が高度に発達した現代社会では、企業は消費者の正義感、価値観をうまく捉え、信頼を勝ち得る戦略を取らないといけないステージに突入しています。一方で消費者側も、やみくもに値上げをたたくのではなく、商品の適正価格を見定める目を養う必要があります」(犬飼准教授)

 最後に笑うのは、「ステルス」より「正直者」のようだ。(桜井恒二)

週刊朝日  2021年9月10日号