完成したビール。ラベルは約70種から選べる
完成したビール。ラベルは約70種から選べる
この記事の写真をすべて見る

 本誌編集部員がクラフトビールの醸造体験をしてみた。名前からして週刊誌らしい、辛口ドライな切れ味があるようにも思われるが、このビールは果たしてうまいのか?

【写真】撹拌作業の様子がこちら

*  *  *

 休刊が決まった後、失意の本誌編集部員たちの心を癒やしてくれたのは、ビールだった。毒づきつつグラスを重ねるある日、ふとくだらない洒落を思いついた。

 最後の思い出として、編集部オリジナルのビールを作って「アサヒビール」と名づけたら面白いだろうなあ、と。いやそりゃまずいよ。「週刊朝日ビール」にしようと、酔っ払い部員たちはすぐに意気投合。

 そこで「NO BEER,NO LIFE」とうそぶく面々が向かったのは、東京・板橋にある「TOKYO ALEWORKS」。ここでビール醸造体験ができるのだ。

 予約を申し込むと、「どのようなスタイルのビールにするかお選びください」と言われた。IPA、スタウト、ホワイトエール、セゾンなど8種類から選べるという。20L仕込みで、醸造体験から4~5週間後に、330mL入り瓶48本となる。

 IPAを選択し、迎えた醸造当日。

 陽光が燦々(さんさん)と入る明るい造りの醸造室で、午前10時30分にスタート。

醸造所側の指導で3種類の麦芽を使用した。どの麦芽をどういう比率で用いるかで、味が決まる。大量の麦芽をえっちらおっちらと運び、粉砕機に投入。粉砕後に食べてみて「うめえ!」「コーンフレークみたい」。
醸造所側の指導で3種類の麦芽を使用した。どの麦芽をどういう比率で用いるかで、味が決まる。大量の麦芽をえっちらおっちらと運び、粉砕機に投入。粉砕後に食べてみて「うめえ!」「コーンフレークみたい」。
まずは麦芽の計量と粉砕
まずは麦芽の計量と粉砕
ホップは粉砕し圧縮したペレット状になっている。土っぽい苦みを生むもの、シトラスのような香りをつけるものの2種類を選択した。
ホップは粉砕し圧縮したペレット状になっている。土っぽい苦みを生むもの、シトラスのような香りをつけるものの2種類を選択した。
使用原料や各作業工程の開始と終了の時間を丹念に記載していく
使用原料や各作業工程の開始と終了の時間を丹念に記載していく
麦汁に加える硫酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸といった薬品(1)の量を測定する。理科の実験をしている雰囲気だ
麦汁に加える硫酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸といった薬品(1)の量を測定する。理科の実験をしている雰囲気だ

 麦汁に加える薬品をメスシリンダーで量ったり、でんぷんがすべて糖化したかどうかを調べるのにヨウ素を用いたり(でんぷんが残っていれば紫に変色)と、理科の実験をしているかのよう。一方で、麦芽を運び、麦汁を手作業でひたすらかきまぜるなど、体力勝負の一面もあった。

作業の最終盤。煮汁を濾過してホップのかすやタンパク質を除去したうえで、醸造タンクに移す。ホースと金具を醸造タンクにつける
作業の最終盤。煮汁を濾過してホップのかすやタンパク質を除去したうえで、醸造タンクに移す。ホースと金具を醸造タンクにつける
粉砕した麦芽7.5kgを専用鍋に移し、68℃のお湯35Lと薬品(1)を加えて攪拌する。鍋の中はオートミール状で、かなりの力作業。麦汁の中のでんぷん質が酵素により糖化していく
粉砕した麦芽7.5kgを専用鍋に移し、68℃のお湯35Lと薬品(1)を加えて攪拌する。鍋の中はオートミール状で、かなりの力作業。麦汁の中のでんぷん質が酵素により糖化していく
オリジナルビールの醸造タンクは5ガロン(20L)入り。4~5週間発酵させた後に、どんなビールができるのか。いとおしく思う
オリジナルビールの醸造タンクは5ガロン(20L)入り。4~5週間発酵させた後に、どんなビールができるのか。いとおしく思う
「ビール製造作業の9割は、掃除、洗浄、殺菌です」とは醸造所側の説明。麦汁を煮込んでいた鍋を洗浄殺菌するのも、体験のうちだ
「ビール製造作業の9割は、掃除、洗浄、殺菌です」とは醸造所側の説明。麦汁を煮込んでいた鍋を洗浄殺菌するのも、体験のうちだ
作業場の隣にブリューイングパブが併設されている。IPAも数種類用意されており、「週刊朝日ビール」の味がどのようになるのか思いを馳せつつ乾杯する
作業場の隣にブリューイングパブが併設されている。IPAも数種類用意されており、「週刊朝日ビール」の味がどのようになるのか思いを馳せつつ乾杯する

 麦汁にホップを加えると、醸造室には“ビールの香り”が漂いだした。それを嗅(か)ぐや、荒れた気持ちも和やかに。16時前に全作業が終了。童心に帰って楽しんだビールの味は?(文/本誌・菊地武顕)

●TOKYO ALEWORKS

東京都板橋区板橋1-8-4

週刊朝日  2023年6月2日号