漫画家の青木俊直さんが放送時に投稿して話題を呼んだ「あま絵」が並ぶ
漫画家の青木俊直さんが放送時に投稿して話題を呼んだ「あま絵」が並ぶ

 三陸鉄道へのあまちゃん効果はこれにとどまらない。「かつては、営業先で久慈市や宮古市の名を上げても、よそのみなさんにはピンとこなかった。でも今は、『じぇじぇじぇのところから来ました!』と言うだけでわかってもらえる。ものすごい武器を手に入れました」(橋上さん)

 三陸鉄道では4月、のんさんや「あまちゃん」のファンたちが手がけた新プロジェクトが発進する。車体を「あま絵」(ファンが描いた「あまちゃん」に関するイラスト)で装飾したラッピング列車の運行だ。

 ファンたちは22年7月から2カ月間、クラウドファンディングで資金を募り、目標金額の666万円を上回る約792万円を集めた。

 プロジェクトリーダーの今西穂高さん(65)は埼玉県在住。500キロ以上離れた地から岩手県へエールを送る。「『あまちゃん』が放送された13年、私は33年勤めた会社をクビになりました。失意のなか、『あまちゃん』が毎朝、笑いや元気をくれたんです」

 のんさんが芸術、音楽、映画といった多様な分野で活躍し、多くの人々に元気を与える姿を見ているうちに思い立った。「のんさんのように、私もみんなに元気を贈りたい」──。その希望が実を結び、ラッピング列車は来年4月まで運行される。

「北限の海女」「三鉄」……ファンが“聖地巡礼”として観光に訪れる場所は他にもある。のんさんがロケ中に親しんだ店もそうだ。久慈市の喫茶店主、樋澤正明さん(75)は言う。「のんさんがSNSで紹介してくれたおかげで、店の名が全国に知られてね。満席で来店を断る日もあります」。のんさんは岩手県と他の都道府県の人たちの「橋渡し」役となっているのだ。

 未曽有の大震災から12年。追悼行事をやめる自治体も出てきた。報道も以前より減り、震災の記憶や教訓の風化を危惧する声もある。前出の米内さんは「そんな今だからこそ、のんさんの存在が大きい」と感じている。「正直、震災を思い出したくないという気持ちもあります。でものんさんが毎年のように被災地とかかわってくれるおかげで忘れないでいられるし、前に進もうと思える」と語った。(佐藤修史、本誌・唐澤俊介)

週刊朝日 2023年3月17日号より
週刊朝日 2023年3月17日号より

週刊朝日  2023年3月17日号

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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